In 導入事例, 経営理念(ビジョン)

パーパス・バリューをどのように浸透させて行けば良いのか?という沢山の企業様からお問い合わせを頂きます。「自分たちで作ったのですが、浸透させる方法を現在模索中です」または「効果的な浸透の方法が見つかりません」、あるいは、もっとはっきりと「パーパス・ビジョン・バリューは完成しているのですが、浸透の段階で行き詰まりました」というようなお問い合わせです。パーパス経営という言葉が行き渡り、必要性や掲げる意味についてのアカデミックな書物や記事は多くとも実際に実務としての浸透の方法については、まだまだ情報が少ない為だと思います。

短時間で一気に浸透させる

もし自社の管理職層に「短時間」で「一気」に浸透の「鍵」を渡すことができたならば?

そのようなことが実現できたら素晴らしいですよね。今回は、そのような奇跡のような状態を作り出した事例をご紹介します。お客様は、世界中で事業を展開され従業員がグループ全体で4万人近く、特殊技術で業界を牽引されてきた歴史の長い製造業です。昨年からパーパス・バリュー策定のお手伝いをさせて頂いています。

4月に新しいパーパス・バリューの発表を社長自らされましたが、今回は浸透を加速させるために、世界のリーダー約500名が集まる2日間の会議の最後に2時間を使ってパーパス・バリュー浸透ワークショップを開催しました。海外の方が30%程度いらっしゃいましたので、同時通訳も入っていて表示資料はすべて日英2カ国語で作成しました。

 

500人の参加者とワークショップなど出来るのか?

その人数では「講師が一方的に話す講演になるのでは?」という疑問もごもっともですが、講演ではありません。2時間でグループワークが3度、ペアワークが1度という構成の、参加されるかたの主体性が試される体験型の研修(ワークショップ)なのです。そもそも、今、パーパス浸透に悩んでおられる経営者の方、人事・経営企画室などの方も、出来上がったものを、どのように接する機会を増やそうとも、上から一方的に押し付けても浸透しないということは、すでに薄々気づいておられますよね。大切なことは、一緒に浸透を考えて頂くこと。一方的な押し付けであれば、何度回を重ねても浸透は進みません。2時間の構成は以下の通りです。最初に私の講義とグループワークを交互に入れていきました。

最初は講義から入りました。パーパス・バリューとは何かも良くわからないまま、話が進んでしまうといけませんし、最終的リーダー自身がエバンジェリスト(伝道者)として、このパーパス・バリューを普及・浸透させていく際に、この部分が曖昧だと自分の言葉でパーパスを語ることはできないからです。

また、今回のパーパス・バリュー策定のテーマは、「社員のひとりひとりがモチベーション高く仕事ができるように、羅針盤とぶれない尺度を創ること」でした。それを達成することで、この会社を更に大きく誇れる会社にして、国内だけでなくグローバルでも成長をし、世の中にも価値を提供して行くことが、ゴールです。社長から頂いたフレーズは「心に火をつける」。新しいパーパス・バリューを浸透させていくため、この500名のリーダーのみなさんが、浸透の旗振り役として、この会社で働くひとりひとりの皆さんの心に着火できるように、この2時間で理解し、共感し、行動につなげていかなければなりません。

また、なぜ作られたのか?の部分は、それぞれの企業によって事情が異なると思いますが、今回は、なぜの部分も非常に大切でした。こちらの会社には、これまで培われた企業経営の哲学や原則が社内の至るところで、息づいていました。その為、通常の「経営理念の改定」ではなく、根底に流れる「これまで大切にしてきたことを踏まえてのリニューアル」、「これまでの思いを引き継いで」作られたものであるという共通認識の合意形成はかなり重要な部分となりました。

「声を拾い広げる」これが大人数合意形成の肝!

おそらくこの2時間の難関は最初の2つのグループワークだったと思います。まず、「パーパスとはつまりどういうことなのか?」を議論し、その後そのパーパスを実現するために存在する4つのバリューについて議論して頂きました。ポイントはグループワークを行った後に、時間をかけて講師が会場を走り回って拾っていった参加者の声です。これを、私は参加者の声を拾うという意味で「拾い(ひろい)」と言っています。私の行う大規模講演では、必ず使う手法です。拾わせて頂いたコメントを、講師が言い換えという手法で噛み砕いて行きます。どのような回答が出てくるか判りませんし、海外からの方にも不公平なく発言して頂く必要があります。決して誘導してはいけませんし、反対意見がでてきても、否定をしてはいけません。今回の策定や浸透の主旨に合わせたり、また、これまでの経営理念とと繋げたり、現会長と社長の想いを言い換えてみたり・・・・・出して頂いた意見に「意味づけ」をすることが大切です。

 

今回のパーパス・バリューの浸透に関しては、勝手に新しいものが創られたのではなく、ご創業以来の想いや哲学を継承して創られた「リニューアルである」という所が非常に重要でしたが、その部分もご参加からの声で共感を生み出す事ができました。「新しいパーパスの〇〇という言葉は、私達が言い続けて来た〇〇なんだということに気が付きました」というような発言です。

言葉の背後にある意味もきちんとご自身なりに理解されて、本当の意味を腹落ちして下さったこと、さらに私自身が、こちらの会社の経営哲学がまとめられた書籍から飛び出して来たような言葉に思わず絶句感動してしまい、その感動を素直に発言してくれた方にお返ししました。その時、会場に静かに感動が広がっていくのを感じました。一緒に共感するという事は、このような体験を共にすることだと、私自身も心が震える思いでした。

また、ある方は直前に現在の会長がおっしゃられた言葉を引用されました。会長は「大枠を作って任せてあげなければ、人はやる気もでないし、育ちもしない」そして、「今回のパーパス・バリューこそ、その大枠である」とおっしゃっていたのです。発言して下さった方は、「だから、私達は、リーダーとしてこの新しい大枠を大切に、人を育てていきたい」というようなことを言って下さいました。このコミットメントも非常に響きました。新しい大枠は、創業以来の想いを継承したものであるという腹落ちのあと、新しい枠(判断基準)で次の飛躍への変革を進めていこうという決意となったからです。
この会長の言葉への共感も、今回非常に重要なキーワードとなりましたので、終了後に予定はしていませんでしたが、急遽作成したハンドアウト(簡単なテキスト)に会長の言葉を加えさせて頂きました。

このような、ひとりの気づきを全体に共有していく事の繰り返しで、パーパス・バリューの理解が進んでいきました。私自身にしても、今回策定の最初から、打合せを含めると1年ほど関わっていたために、このやり取りが可能でしたが、もしすでに完成しているものを浸透する役割であったなら、今回のように出来たのかどうかは未知数です。すべてアドリブの一発勝負ですので、おそらく、相当な事前打合をさせて頂かないと難しかったと思います。私のしつこい打合せにお付合い頂き、工場見学、研究所訪問、前日からのリハーサルなど、数ヶ月におよび沢山のリスエストにお応え頂いた今回のワークショップをリードされたチームに感謝です。

パーパス・バリューを通じた一体感が生まれた

ワークショップは、「リーダーとして、どのように浸透に関わっていくべきか?」という、考え方と浸透のスキルについて学び、まずは自分自身が実践者となるべく、「リーダーとしての貢献を定義する」、つまり、まず自分自身がどのような行動を起こすか?というディスカッションに進みました。会場の皆さんの意見を拾いながら、最後は社長にも壇上に上がって頂き、浸透の旗振り役として社長ご自身が「このパーパス実現の為に、何をするのか?」ということを語って頂きました。

社長には、このような無茶振りにも応えて下さり、そして最後に世界のリーダー達に向かって、今日だけでパーパス・バリューが浸透する訳ではなく、今日から、これから一緒にこのパーパス・バリューで会社を変えていきましょうという意味の最後のご挨拶もして頂き、まさに、パーパス・バリューという新しい共通言語を使って一体感が生まれた、記念すべき日の締めくくりとなりました。

当初「浸透のきっかけ作り」になれば、というようなゴールを設定していたものの、アンケートでも正直このような大規模会議では信じられない程の非常に高い満足度を頂き、まさに同社におけるパーパス浸透は、ロケットスタートを切りました。この大きな管理職への浸透の仕掛けをきっかけにして、この後の浸透が進んでいくことをとても楽しみにしています。

「作ったら使う」ことが大切

冒頭お話した「パーパスの浸透方法」に関するご相談の中でも、実は「この1年以内に新しいパーパス・ビジョン・バリューを作った、または作り直したが浸透できない」というご相談が最も多いのです。創り直してから、浸透について「困る」、「考え始める」という順番です。しかし、せっかく作っても使えない、使わないものでは意味がありません。「作ったら使う」、その為には最初から「使いやすさ・浸透しやすさ」を考えて作り、浸透のグランドデザインを練り上げておくことが大切です。そして、今回の事例のように、浸透フェーズを効果的に回すためにも、ぜひ作り直す前にご相談を頂ければと思います。

(2023年7月実施)

パーパス策定に関する資料をパーパス策定・刷新をご検討中の企業様に差し上げております。

こちらからダウンロード下さい。

良いパーパスは、こう作れ!!~創業の想いを今に蘇らせる~

パーパスの浸透~アンバサダー活動で浸透が自走~