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良いパーパスは、こう作れ!!~4つのポイント大公開~」この記事は、弊社ホームページでも多い時は毎日500近いアクセスがある人気の記事です。今日は、この記事の続編として弊社のサポート事例としては、レアケースである経営層のみのグループで短期間に創り上げる事例をご紹介します。

短期間で経営層だけで創る

パーパスの策定で最も大切なポイントは、「使えるか・使えないか」です。作ったもので「企業文化醸成」「モチベーション向上」「多様性推進の為の共通言語作り」などの課題を解決し、成果につながらなければ意味がないのです。つまり創り上げる事より浸透させる事の方がはるかに重要で、浸透フェーズでは、当事者意識・自分事化・仕組み化の3つが特に重要です。パーパスに当事者意識を持たせる為に、弊社では「共に創る」という事を強くお勧めしており、これまでは全社参加で、また少なくとも各部門からの選抜メンバー参加でワークショップ型でキーワードを出し合って、その後さらに選抜された策定メンバーが言葉に紡ぎあげるというやり方を実践してきました。

しかし、今回のオーダーは、経営層だけで短期間で創られたいというご要望でした。特殊技術で業界を牽引されてきた歴史の長い製造業のお客様で従業員がグループ全体で4万人近く、事業ドメインも異なるものが複数あり、もちろんグローバルにも展開をされておられる企業です。私にとっても、チャレンジでしたが、なんと期間は3日。まずパーパスの基礎知識と良いパーパスの作り方のワークショップを半日、その後間髪をいれず2日間の宿泊型ワークショップで日本語版のパーパス&バリューと英語版の2階層型のパーパス&バリューを完成させました。

ご創業の想いを大切に・・・

今回のテーマは、「社員のひとりひとりがモチベーション高く仕事ができるように、羅針盤とぶれない尺度を創ること」でした。それを達成することで、この会社を更に大きく誇れる会社にして、国内だけでなくグローバルでも成長をし、世の中にも価値を提供して行くことが、ゴールです。社長から頂いたフレーズは「心に火をつける」。この会社で働く皆さんの心に着火できるようなパーパスを創るのがゴールとなりました。

そして、このケースは、大きな特徴があります。こちらの会社には、第2創業期、飛躍の源となった偉大な中興の祖とも言える方がいらっしゃった事です。すでに他界されていますが、その方の企業経営の哲学や原則が素晴らしものだったのです。社内の至るところで、その偉大な経営者だった方の言葉が生きています。その為、通常の「経営理念の改定」ではなく、根底に流れる「これまで大切にしてきたことを踏まえてのリニューアル」という形を取りました。新しいものをカッコよく創るのではなく、これまでの想いを現代の方にも判るように言い換える事が重要です。また、次世代リーダーの皆さんで、100周年には、「こうありたい」と考えて下ったビジョン・ステートメントも共有頂きましたので、若手の皆さんが考えた理想の姿も参考にさせて頂く事ができました。

多くの伝統的な日本企業とのご商談で、創業以来の理念や社訓などとても変えられない、これは人事や経営企画室の口を出せる部分ではないと、二の足を踏まれる場面を何度も見てきましたが、そのまま難解な経営理念を掲げて、誰も理解できていないままにしておくのは、本当に勿体ないのです。改定ではなく、リニューアル、リフレッシュするのです。難解になってしまったのは、誰のせいでもありません。時代が変わったからです。もともと経営理念というものの成り立ちが日本では、「経営者の覚悟」を表したものとしては浸透していったのが、時代を経て「組織のものへ」と変わっていきました。そして、サステナビリティ(持続可能性)が全世界的規模の課題となる中、企業にもあらためてパーパス(存在意義)が問われ、それは「社会に向けての企業の志」を表すものとして変容しているのですから、時代に合わなくなって当然なのです。

ワークショップ設計のポイント

具体的にどうしたか?まず、ファシリテーター(進行役)は、誰よりもその大切にして来た想いを理解する必要があります。今回は50年史というものがありましたので、それを4日間かけて丁寧に読み込みました。またその中興の祖である方がマネジメントの哲学と原則に関する書籍を書かれていたので、その書籍を日本語版と英語版で読ませて頂きました。読み込むうちに、現在の経営理念に表現されている以上の「社員への愛」など様々なものを感じることができました。でも、本来の気持ちが社員への愛だったとしても「社員を大切に想っているよ、だからうちの会社にいたら一生安泰だよ」というようなメッセージでは、現代に合いません。そのまま伝えると文言上は、「上から目線」な誤解を与える可能性があるのです。そこで、現代に合わせてその内容を噛み砕き、不変の重要部分を今に活かす為に、ワークショップには、その本を皆さんに持参して頂きました。

弊社の場合「この課題で90分考えて発表して下さい」的な進行でなく、策定に関しては、その企業の課題に合わせて、頭を柔らかくして「未来に向かう」って頂くための様々な短めの演習を積み重ねて行くのですが、パーパス策定とバリュー策定の演習の中で、「私たちが大切にしてきたもの・想い編」と「私たちが大切にしてきたもの・行動編」に分けて議論を組み入れました。

ちなみに私は気が小さいので、それだけで今回ご依頼の企業を理解したという核心が掴めなかったので、事前に分野の異なる工場を2つと技術開発センターを訪問させて頂き、各事業ドメインでの課題やありたい姿、パーパスに反映したい事などをディスカッションさせて頂きました。経営層だけで創って、もし暴走されて、命令調のものが出てきてしまったら、ディスカッションの際の現場の意見として、ファシリテーターとしてカットインをするつもりでしたが、ご経験豊富なレベルの高い経営陣の皆さまで、その心配は杞憂に終わりました。しかしながら、製造現場でお聞きした「仕事への誇り」や「お客様のおかげ」という意識、「ユニークさを目指しています」「技術だけでなく、この会社のマインドも伝えていきたい」等という現場の方の生の声は、本当に策定するにあたって力となってくれました。

SDGs Washを避けて本当の意味でのCSVを意識

また、今回特に注意を払ったのが、CSV経営と表面的に捉えたり、全体をCSVでお化粧をするようなパーパスにすることを避けるということです。経営理念の改定があまりにも昨今ブームのようになってしまい、自覚があるなしは別として、形だけSDGsやESGなどと取り入れる企業が増えているようです。これをSDGsウォッシュなどと言う言い方をするのですが、SDGsウォッシュとは、実態が伴わないのにSDGsに取り組んでいるように見せかけることを指す言葉です。もともとは、デニムなどで履き込まれたように一度洗ってシワや色落ちなどを人工的に作るウォッシュ加工という言葉から、環境に配慮したように魅せるGreen Washを経てSDGsウォッシュにたどり着いたようです。

CSV経営は、企業が単に社会的責任として、社会に貢献するだけではなく、経済的利益も出しながら社会への貢献もする、社会的価値と企業的価値の両立、「共有価値の創造」を意味しています。米国の経営学者マイケル・ポーターとマーク・クレーマーが、2011年にハーバード・ビジネス・レビュー』で、「共通価値の戦略」として発表しています。

これまでも、弊社ではパーパスやミッションなどの経営理念を策定する際には、「for自分たち」「for顧客」「for組織」「for社会」というパワーポイントを使って来ていたのですが、今回は経営層という事であること、CSR、SDGs、ESGはすでに経営に織り込まれてサステナビリティレポートなども出されている企業であったため、明確に考え方の変遷から解説して、ウォッシュを回避しました。うっかり行動の基準であるバリューにまで、「健全な利益の追求」などという文言や「持続可能な社会・・・」などの文言を入れてしまうと、本当に浸透フェーズで身動きが取れなくなりますので、注意が必要です。パーパス研究では、多くの知見を持つ「パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える」(東洋経済新聞社)の著者名和高司さんも、その書籍の中で、SDGsの17枚のカードは、もはや規定演技であり、それをベースに型にはまらず自由演技を目指すべきと書かれています。

経営層だけで創るリスク~ヤマタノオロチ現象~

  • day1  13:00-16:30   パーパスとは何か(基礎編)役員会議室
  • day2     9:30-18:45  パーパス策定 宿泊
  • day3     9:00-16:30  バリュー策定 宿泊

これが、今回のスケジュールです。day1の後、day2で議論するテーマを宿題として、すべて事前にお知らせして、考えをまとめてday2のワークショップにご参加頂きました。ただし、これは経営層だったから出来えた事であり、全員参加の場合や次世代リーダーでの策定の場合は、単なるネタバレとなりあまり良い手法ではないと思います。今回はやむを得ずという展開でした。

今回お忙しい皆さんのスケジュール調整が難しく、day1と宿泊型のday2、day3の間が4日(営業日で2日)しかなかったのですが、考えをまとめるという意味では、day1とday2は、期間をあけることをお勧めします。ここに時間的余裕があれば、day1の後に、それぞれの管掌部門の部門長レベルのメンバーとも一度議論を重ね、知恵も貰ってくるというような展開も可能であったと思います。今回は、結果として、心が震えるような素晴らしいものが完成していますが、一発勝負であったことは否めず、もう少し時間があったほうが、リスクなくできると思います。

また、スケジュール以外のリスクとして、今回のように社長を含む経営層のみで創るリスクにも触れておきます。大きく2つあります。ひとつは、社長に対する忖度(そんたく)が強く発動してしまい、社長が発言したらすべてそちらに流れてしまうことです。この状態になると、何の為に複数人数で創っているのか判りません。

もうひとつは、ヤマタノオロチ現象です。ヤマタノオロチは、日本神話に登場する胴体ひとつに頭が8つ、尾も8つの伝説の生き物ですが、各事業のトップである取締役が集まるという事は、それぞれ異なる事業背景と利害を持つために、胴体はひとつのようですが、考えていることもバラバラ、創りたいパーパスも異なってくる可能生があります。例えば、人事管掌役員は、モチベーションを上げる文言を入れたい、営業管掌役員は、売上向上を意識した文言が良い、ESG管掌役員や企画室管掌役員は、外向けに耳障りの良い文言を入れたいなど、話が一向にまとまらず平行線をたどる恐れがあります。時間をかけずに経営方針に沿ったものを創り上げるという点において経営層が主導するのは選択のひとつではありますが、その為のリスクも伴うという事でご計画頂ければと思います。今回は、幸い全くそのような事は起こりませんでした。

心に火をつける

心が震えるようなものという表現を使わせて頂きましたが、今回のパーパス・バリューは、ご参加になった経営層の皆様の高い知見とそれぞれの役職を超えて会社をより良くしようという想いが昇華した化学変化によって生まれました。社内に対しては、それぞれの気持ちを奮い立たせ、社会に対しては、その使命・志を明らかにした本当に素晴らしい出来栄えのパーパス&バリューです。まさにこれから、この言葉が多くの方の「心に火をつける」ものになっていくと思います。現在最終チェック中でお披露目は、これからですが、これであれば、この会社を苦難の末に、業界を牽引する大きな組織体に育て上げた中興の祖である方に、きっと天国から合格点を頂けるのではないでしょうか?

これまで、創る過程で社員エンゲージメントを上げる事ができるのに、きれいな役員応接室に籠もって役員だけで創るのでは勿体ない、共感を生むための理念作りは、できるだけ多くのメンバーで、策定の過程でも浸透を促進することができるというのが持論でしたが、今回の素晴らしい成果を目の当たりにして、私自身も考えを改める良い機会となりました。

 

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