In 導入事例, 経営理念(ビジョン)

経営理念とM&A~融合加速の為の全社員参加の経営理念作り

M&Aをお考えの経営者の皆様、早期融合をミッションとされる人事部の皆様、相乗効果を期待されての合併、確実に成功させたくはありませんか?今回ご紹介させて頂く事例は、外資系製薬会社様で、企業合併にかかわる組織融合のお手伝いを経営理念刷新という手法を使ってお手伝いさせて頂いたものです。外資系企業(32000名)と合併される側の日系企業(約400名)とのM&A案件です。

2019年5月から2019年12月までの長い経営理念刷新のプロジェクトで全社員向け、phase1が7回、phase2で9回の全16回、2020年1月正式合併と共に新しい経営理念をお披露目してプロジェクトが終了しました。今回は、共に新しい会社の経営理念を創るという経験で融合を加速させるという試みとなりました。結果的に経営理念を共に改定するという事を通じ、新しい会社の働き方を、自分たちの組織風土の方向性を、共に決めるという素晴らしい体験をご一緒にさせて頂きました。想定外の結果も含めて大きな成果を掴む事ができましたのでご紹介させて頂きます。

10年?組織融合にかかる時間

別の文化を持つ企業がひとつになる、それぞれの企業は素晴らしいものを持っている。でも、お互いの企業文化を融合してひとつの組織になる為には、長い年月がかかる。メガバンクの合併で奇しくも2社の方から「10年かかった」とお聞きした事があります。他にもはた目には非常に上手く融合されたように見えた製薬会社さんの大型合併でやはり人事の方から、「本当にひとつになるまで10年かかった」とお聞きし驚いた事があります。10年というのは、ひとつの指標なのか、それとも表面上融合しても、最後まで「あいつは旧○○出身」という意識が抜けないのか・・・・・動きの速いビジネスの世界で合併後に、いちはやく成果を出す為には、どうしたら良いのでしょうか?経営陣の頭の中で考えるのではなく、全社員で考えてしまおうというのが、今回の試みでした。融合にかかる時間短縮の為に必要な要素や考えるべき事を、2回の研修の中に圧縮して詰め込みました。

Phase1 組織の中での個人の成長と個人のビジョン「新しい仕事の仕方はじめよう」
Phase2 経営理念(ミッション&バリュー)日本語化「共に働く基準を創る」

Phase1研修の構成

Phase1の研修は、合併される方の皆様向け5時間コースです。日系企業から外資に転換される皆様の準備の為のワークショップのような意味合いもあり、外資系での働き方、外資系でのキャリア形成など変化への対応に対する研修を行いました。これからどうなるのだろうという不安を感じている皆様の気持ちをネガティブからポジティブに転換、「モチベーション向上」の部分が肝となりました。

モチベーションの指標はいつものようにアンケートの研修前と研修後の「会社への期待」で測ることとし、経営陣の方々とは120%アップのお約束をしました。結果的は10段階で研修前の5.7ポイントから研修後の7.62と133.6%となりました。お約束は、果たせましたが、まだまだ懐疑的な数字を付けられた方もいらっしゃった為、このあたりはphase2への宿題となりました。

私は、社内のモチベーションを上げて活力ある組織で新会社の事業をスタートして頂きたい、個々人に活き活きと新会社でその才能を活かして頂きたいと、どちらかと言えば個人に意識が行くのですが、このように会社への期待がアップしたことで、優秀な人材の離職の抑止になっていったと言う事は、プロジェクトが始まってから判った事でした。人材流失を防ぐといのは、どちらの企業でも今、重要課題のひとつですが、M&Aで社員をそのまま引き継ぐ場合など、特に優秀な人材の離職防止は経営の最重要課題になるという事を改めて実感しました。

そして、このようなインタラクティブでディスカッション多用型のワークショップ型研修は、はじめてであり、この5時間が合併後のメンバーとも合同で実施されるphase2に大きなインパクトを与える事になりました。

Phase2の研修構成

Phase1は、5時間でしたが、phase2は、9:30~18:00の1日で、開催しました。この日1日で、経営理念のミッションとバリュー(行動指針)を作ります。社員で共に働き方の基準を創る事がメインですので、ビジョン(会社の方向性)の部分は、経営陣から決まったものを提示して頂くようにしています。英語でビジョンを打ち出して下さる会社、作る際にこのワードは絶対入れて貰って下さいという会社と状況に応じて様々なのですが、今回の場合は、箇条書きでビジョンは3つ提示してい頂きました。

何が生々しい現実だったかと言えば、ビジョンの共有についてです。会社を知るという事に対して、言い換えれば合併される方の側の方には、あえて会社に興味を持つ必要もなかった為、会社のビジョンに興味を持ち、共に考えるというプロセスが非常に難しかったのです。
全9回のうち第1回は、その部分が偶然非常に上手く行ってしまいましたが、2回目では、1回目の成功が偶然であったことを思い知らされました。ビジョンの所で納得できない方々からの反論にあい、最後共に創り上げたという感動で纏め上げるまでに非常な努力を要しました。

このワークショップは、人事責任者の方と共に設計をしていましたので、何度もディスカッションを繰り返し、伝わっていないと感じた事は、研修設計の方向性を変えた事は勿論ですが、社長様から新たにメッセージを発信して頂くなど、考えられる事はすべてやってみました。明確な発信をして頂いた後も、そのビジョンに共感できない方もいらっしゃる訳で、またそこで苦戦しました。

今日からシャンプーだ!!は、納得できない

なぜそのように苦戦するのかと言えば、たとえば、昔から石鹸を作って来た会社に、会社の方から「これからはシャンプーひと筋で行くぞ」というビジョンがいきなり出たら、石鹸づくりに誇りを持って来られた方は、納得も行きませんし、そのようなビジョンに共感できないという事です。おおかたの経営陣は十分説明したと胸を張りますが、一度や二度の会議でその話をしたとしても、社員にとっては全体の業務時間の1%にも満たない時間しか費やされていない話を覚えはいないからなのです。

実は次にプロジェクトをスタートさせた組織でも、同じ状態でした。「今日からは、シャンプー!!」は、ビジネスの流れが速い昨今どの業界でも起こりうることなのです。合意しない、モヤモヤした気分のまま仕事をするのは、組織にとっても、個人にとっても不幸な事だと思います。

しかし、今回、ビジョン浸透に関しては、色々な方向から考える短い演習を沢山設計、実施した事で、合理的に納得できる理由にきちんと気づく事ができれば、多くの方の共感を得る事ができるという事を実感しました。理想的には、社内で繰返し発信して頂く事ですが、外部の手を借りてビジョン浸透を加速させる事もできるという事です。

簡単に言えば「うちの会社はすごい」「うちの会社は、こんな事もできる」「うちの会社は、こんな高みを目指している」という事を、共に理解する過程を組み込む事が重要だと、今回の難しいプロジェクトで私自身実感しました。外部ファシリテーターのサポートで会社の方向性の理解は、促進できるという事です。今回は、外部の目から見たこちらの会社のすばらしさを「凄いぞ!○○!」という事で、一気に私の方からご紹介させて頂きました。

 

タグラインとは、企業の価値を一言で表す言葉

ビジョンを確認した後、ミッションの作成、バリュー(行動指針)の策定と進めて行きました。今回は、ミッションは、短く判り易くという事でタグラインという形で作ることにしました。タグラインとは、その企業の価値を一言で表した1行の短い文の事です。キャッチコピーは、特定の商品を表した言葉で意味合いが異なります。タグラインを作る過程の演習の積み重ねで、自分たちの会社の価値も判る仕掛けになっています。

バリュー(行動指針作り)は、楽しい

バリュー(行動指針)は、今回は親会社の持つ4つのバリュー(英語)に日本語の説明文を付けるという形で作り上げました。自分たちが、どのような文化を創りたいか?どのような働き方をしたいかを、もっとも明確に打ち出せる部分で、毎回とても盛り上って楽しく議論が進みました。

この策定過程でのポイントは、ファシリテーター(進行役)の講師が、議論がそれないように各グループにアドバイスをして行く事だと思います。今回は、毎回5-6名のグループがありましたので、常に巡回をしていました。アドバイスにあたっては、厳しめの事も敢えて忖度なく言わせて頂いています。的外れなコメントのないように、業界と取り巻く環境については、事前に何度もヒアリングと個人にも勉強をして臨みました。

今回のphase2ですと、ものすごく真面目な公務員的なものを作っておられたり、議論が小さかったりの場合は、容赦なく「やり直し」をして頂きました。アンケートにもやり直しを指示されたグループのある方は、終了後、「駄目だしをされたのは衝撃だったが、やり直したら、本当に素晴らしいものが出来た事が衝撃だった」とコメントをくださいました。また「理念を考える中で国内の視野から世界的な目線が発見できたことは個人的に大きかった。」とコメントされた方もいらっしゃいました。

9回の研修(ワークショップ)の成果物(グループ数50近く)を、選抜されたプロジェクトメンバー約10名が複数回のミィーティングでまとめあげ、今回役員会に提出、役員会の承認を得て最終決定となりました。

さらに、追記しますと、9回のうちファシリテータとしては、最も困難な状況だった第2回は、この激しい議論が良かったのでしょうか、午後からの議論は大いに深まり、最後は感動の各グループ発表となり、最終的に9回分50グループ近い中から選ばれたミッションは、この回のグループが作ったものに決定しました。

この経営理念改定の大型プロジェクトから頂いた示唆は非常に多い為、今後ブログの経営理念浸透の項目でアップして行きます。