In 理念浸透

2019年3月のハーバード・ビジネス・レビュー(以下HBR)の特集は、「PURPOSE パーパス ~会社は何のために存在するのか、あなたはなぜそこで働くのか?」です。パーパスは、存在意義として訳され、存在意義の明確化が組織を強くするというパーパス・マネジメントが注目されているのです。HBRの特集だけなく、パーパスを持たない企業は、社会に存在できず、生き残れない、そしてパーパスは社員を幸福ににし、優秀な人材を惹きつけるとまで言われ、いまやパーパスは経営戦略の注目度NO1に躍り出たかのようです。

前回のブログでは、実際の企業での経営理念改定コンサルテーションの実務を通して、パーパスと経営理念の違いについてお話させて頂きました。今回は、個人の組織におけるモチベーション向上に関して「やり抜く力」をキーワードにお話させて頂きます。

組織のやり抜く力を高める2つの要素

上記のハーバード・ビジネス・レビューの論文に『パーパスの共有が果たす役割 組織の「やり抜く力」を高める」という興味深い論文がありました。ベストセラー「グリッド」の著者であるアンジェラ L.ダックワースの論文で、トーマス H.リーとの共著論文になっています。英文タイトルは、すばり“Organizational GRIT”です。

組織の中で優れた功績を上げる人たちは、すでにトップスピードで走っていたとしても、更なる高みを目指して常に努力をし続けるなど、並みはずれたスタミナを持っていて、自分自身の決意した事に一意専心、いささかの揺らぎもない。筆者は、そのような人たちを「やり抜く力」がある人と表現しています。そして、そのやり抜く力は、情熱と粘り強さという2つの要素で構成され、情熱が今回のHBRの特集のテーマであるパーパスから生まれるとしてるのです。

やり抜く力は、情熱と粘り強さという2つの要素で出来ている。情熱は、自分の仕事に対して湧き上がる興味や、自分の仕事は有意義で人の役に立つという確信であるパーパスから生まれるものである。そして粘り強さは、逆境に直面した時の回復力や、持続的な改善にひたむきに打ち込む力に現れる。やり抜く力を備えた自分の特徴である一意専心の姿勢を実践するには、整然としたピラミッド構造の目標が必要である。
2019年3月号 「PURPOSE パーパス ~会社は何のために存在するのか、あなたはなぜそこで働くのか?」組織の「やり抜く力」を高める」より引用

個人のビジョンの明確化が熱意を生む

私は常日頃、人材育成の実務に携わるものとして、研修やワークショップの中ではパーパスではなく、「個人の仕事におけるビジョン」という言い方をしていますが、情熱という言葉を使っている辺りは、まさにその通りと膝を思わず打つ所です。「想いをエネルギーに生きる人を育てる」をミッションとしている弊社の研修では、説得力研修でも、営業研修でも、熱意のパートで仕事のビジョンを持つメリットのパートがありますし、新入社員向け研修では、自分自身の事に目を向けた後に、「経営理念と自分のビジョンをつなぐ」話をさせて頂くというようにしています。

私の専門である経営理念を活用しての組織活性化施策の中でも、この部分がトップダウン(決定した経営理念を上から押し付ける)か、ボトムアップ(自分の組織での成長の為に経営理念を意識する)かはかなり重要な考え方の部分です。私は、自分がビジョンやそれを達成する為の目標を持つ事の大切さを理解できていないのに、会社の大切に思うビジョンや価値観を大切にできる訳がないと考えています。

やり抜く力のある人達を集めてもやり抜く力のある組織はできない

ここで筆者がもうひとつ大切な示唆を読者に与えています。

ここで気を付けなければならないのは、やり抜く力のある人たちを集めても、やり抜く力のある組織ができあがるとは限らないということだ。それどころか、意欲的な人たちがばらばらに各自の情熱を追及して、まとまりのない集団になる可能性すらある。全員の目標が調整されていなければ、やり抜く力の文化にはならない。 2019年3月号 「PURPOSE パーパス ~会社は何のために存在するのか、あなたはなぜそこで働くのか?」組織の「やり抜く力」を高める」より引用

そうです、その通りです。そこはボトムアップ型で企業文化の醸成を試みる場合の最大のリスクなのです。だからこそ、最初に構造と個々人のメリットを示す必要があります。図に示すと以下のようになります。ボトムアップで個々の多様性や強みを活かして、組織の中で成長しながら、組織のミッション・ビジョンを達成して行くイメージです。バリューの位置関係を見て頂きたいので、左1列だけ日本語で残りは英語のままにしています。

弊社で経営理念浸透や活用のワークショップを行う場合、この個人のビジョンを持つ、持とうという意欲を喚起するワークショップが、大きな鍵になります。また、価値観(バリュー)と言った時に、それぞれの意味の捉え方は各社さまざまですが、この場合のバリューは、行動の判断基準、行動の指針として認識して頂く点も非常に重要です。この認識を間違えると、この一連のプロセスはお題目に終わり、行動に繋がらないという事になります。

Organizationの語源は?

いまから13-14年程前のある日、大崎の貸会議室で行われた製薬会社様の研修の冒頭で、その会社の副社長の方が、「組織、Organizationの本来の意味は有機体である。だから皆さん一人、一人がとても大切だ」とご挨拶されるのをお聞ききし、オブザーブの私は、冒頭からひどく感動してしまったことがありました。しかし、まさにその通り、組織は無機的なものでなく、生きているひとりひとりが活躍できなくてはならないのです。「やり抜く力」のある個人に活躍して頂く為には、このような目標のピラミッドを作り、組織に所属する多様な個々人を有機的に一体化し、最終的には、本当に困難な状況や、判断に迷うような状況でも、同じような行動を選択できる共通の価値観を共有した企業文化を創り上げる事が何より重要だと考えます。

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