1つのスクリプトで戦う時代は終わった
「1つのスクリプトで戦う時代は終わった」これは、先日のMR研修の中である参加者の方が研修で印象に残ったこととして書かれたことです。 この一言に、今のMRを取り巻く環境の本質が詰まっています。 これまでの製薬業界は、ある意味“優等生型”の営業が評価されてきました。会社から渡されたスクリプトを正確に覚え、正しく伝える。それ自体は決して悪いことではありませんし、むしろ高度な知識を扱う業界としては必要なプロセスでした。 しかし、その「正しさ」が、今は大きな弱点になっています。
なぜなら、同じことを、同じように話すのであれば――それはもうAIで代替できてしまうからです。
「正しく伝える」だけでは価値にならない 製薬業界の営業は長らく、「情報提供者」としての役割が強調されてきました。その結果、スクリプトの精度や情報の正確性に重きが置かれ、「どう伝えるか」「誰にどう合わせるか」という視点が後回しになってきた側面があります。 しかし現場では、すでに変化が起きています。 先生から見れば、 「また同じ話か」 「他社も同じこと言っていたな」 このように感じられてしまえば、その瞬間に価値はゼロです。 どれだけ正しい情報でも、「既に知っている」と思われた時点で、面談の意味は失われます。 これは、単純接触回数で関係性を築くという従来の発想が通用しなくなった流れとも一致しています。
今やるべきことは明確です。それは、MR職としてのAIとの明確な差別化です。

すでに、各製薬会社が選択と集中を進めた結果、特定領域において激戦となっている製品群があります。ここで重要なのは他社製品と自社製品をどう差別化するかということであるのに、競合だけでなく、同じようなトークを繰り返すことで、競合だけでなくAIにも負けています。現場ですでに、その取り組みが進んでいるところもありますが、多くの製薬会社さんは、そこにもう一歩、AIとの差別化という視点を入れる必要があります。
GL、COP遵守、ルールを逸脱しないように、間違いが起きないようにと、同じものを覚え、同じように伝えるという伝統・文化があることもわかります。でも、これは、AIにとって最も得意な領域です。だからこそ必要なのが、「脱・画一的」です。私はルールを破れと言っているのではなく、このままでは「自分で工夫する力」が退化しますよと言っています。実際他業種の営業から見ると、この価格決定権のなくなった30年で、営業としてのガツガツ感をすっかり退化されてきたのが製薬業界です。
これまでスクリプトを覚えて、言われた通りに実行してきた“良い子MR”の皆さんにとっては、正直辛い変化かもしれません。「今さら何を求められているんだ」と感じるのも無理はありません。しかし、環境はもう変わっています。変化しなければ、生き残れません。では、どのようなトレーニングが必要なのでしょうか?それは、自分で工夫する力を衰えさせないことです。
スクリプトは完成品ではなく「素材」
私が最近、研修でよくお伝えしているのは、「エビデンスを自分の言葉でサンドイッチする」という考え方です。弊社研修内ではどら焼きの皮の部分の工夫という言い方でお伝えしています。(あんこの部分は、ルール通り変えない!。)工夫する力を鍛えて、自分の言葉で相手に合わせて想いを乗せた提案ができるようにすることです。
本当に小さなことで構いません。自分の言葉を加えるだけで、伝わり方はガラッと変わります。これまでは、やり方を説明して参加者のみなさんにお任せしていたのですが、最近は研修前に各製品群をじっくり勉強するのが当たり前になっているので、研修内でみなさんにやっていただくこと、これが思ったようにできないのです。まず、話す前から先生に忖度するワードを連打しまくって、なかなかパッと本題に入れません。
一番大切なポイントは、とてもシンプルで「言葉に思いを乗せて話す」ということです。例えば、
「先生、この製品の価値は、そこではありません」
と、自分の解釈を最初に添える。そして最後に、
「私どもは、この点を大切にして、先生の患者さんにもっと長く安全に使っていただきたいと考えています」
と締める。たったこれだけです。でも、この“ひと手間”があるかどうかで、ただの情報提供なのか、それとも意味のある提案なのかが大きく変わります。つまり、会社から配られるスクリプト(台本)は“完成品”ではなく、“素材”です。

実は、この自分で言葉で挟もうと思うと、多くの製薬会社さんですでに用意されているエビデンスは長すぎます。この部分を製薬会社さんと共に作り直すお仕事も最近はさせて頂いていますが、「端的な言葉を選んで短く伝える」要はそれだけです。このブログは教育担当者の方だけでなく、拠点のリーダーの方のもたくさん読んで頂いているのですが、ぜひみなさんの拠点、みなさんのチームでも試してみてください。