年明け早々、陣馬山で足首を骨折し、整形外科に入院することになりました。患者として外来や病棟で過ごしてみると、そこにはMR活動のヒントが数多くありました。忙しすぎる診療科での面談、院内での影響力、そして短時間で信頼関係を築く方法。今回は患者目線で見えたMR育成の気づきを共有します。
その領域で第一想起の会社になることの難しさ
整形外科に行ったのは椎間板損傷以来20年ぶりでしたが、まず驚いたのは整形外科の先生の忙しさです。予約はすべてオンラインで明確にコントロールされていて、昔に比べてより先生は隙間なく診察をされていることに驚きました。
その激務の中、お正月明け初日ということで外来の椅子にはすでに何人かのMRさんらしき方が並んでおられました。ここに面談で割り込むには、そしてこの忙しい先生の時間を無駄にしないでDTL(ディテーリング)をするにはどうしたら良いのかということを、リアルに感じることができました。
印象的だったのは、あるバイオ製剤の話です。
「今日も外にMRさん並んでおられますね。MRさんは沢山来られますか?」と先生に話を向けると、「バイオ製剤なんかは、整形でも良いのが出てきていてMRさんも説明に来てくれるよ。○○(製品名)とかね。○○製薬さんだったかな」とおっしゃいました。
その瞬間、私は心の中で「その製品、絶対○○製薬じゃない」と叫びました。
製薬会社名、最初の一文字しか合っていない!でも、ここの私のミッションは早期入院、早期手術でしたので反論はしませんでした。しかし、よく来てくれるのよとニコニコして言われていたのに会社名が間違っている。MRさんからしたら、頑張っているのに会社名から誤認されている。もしくは製品が良すぎて会社名などどうでもよくなっているのか?
間違えておられた○○製薬は外資系で、その該当疾患に対して昔からバイオ製剤を出しているところです。すでに特許切れですが、その疾患ではかなりメジャー。おそらくそこからの想起なのだと思います。
つまり、ある疾患に対しての先生の第一想起を変えるのは、かなり難しいという現実です。
でもこれが、生きるか死ぬかの病気だったらどうだったのでしょうか。たとえば前立腺がんだったら、去勢抵抗性前立腺がんと去勢感受性前立腺がんではまったく違います。そんなところで間違えたり、製品の思い違いをしたりなど、ありえないのではないでしょうか。
しかし整形外科においては、革新的な製品以外は、おそらくAでもBでもあまり変わらないというものが多いように感じました。先生の診察机の前にプリントされていた、恐らく現在フォーカスしている製品が5つだったことからも、それは想定できそうです。
今回はバイオ製剤ですので、もちろん作用機序をしっかりご理解頂きたいものですが、うまく言えませんが、普段AでもBでも変わらないのが標準の先生の頭の中に、この製品だけは「特別なもの」という新しい認識を生むのが難しいという話です。プライマリー領域も同じことが起こっていると思います。
つまり、生きるか死ぬか以外の病気のプロモーションの難しさと感じました。
でも、本当に担当の先生は地獄のような忙しさでした。この状態で同じ製品の話を資材の順序通りに毎回同じように話をしたら、私なら確実に切れます。この先生の惨状とも言える時間のなさを目の当たりにしたことで、ますます先生の時間を無駄にせず、一度でお互い結論を出す重要性を実感しました。
院内攻略の大切さを痛感
入院したため、看護師さんとも頻繁に話すことができました。先ほどと同じ製品で話を向けてみると、最近院内でMRさん主催の勉強会があったようです。
その勉強会に出たことで、注射が痛いと嫌がることもある患者さんにちゃんと説明できるようになって、すごくよかったですとお話して下さった方がいらっしゃいました。
その方は、ひとりの医療従事者として勉強会に参加させてもらえて、その勉強した成果を日々の患者さんとの対話に活かせることを誇りに思っておられるようでした。これは再び、先ほどの生きるか死ぬかではない病気に関わる看護師さんだからこそ、任される範囲も大きく、よりいっそうということもあるかもしれません。でも、MRさんの対応ひとつで、現場がこれほど変わるのだというリアルを感じ取れました。
皮膚科でも同じような経験をしたことがあります。ある疾患について処方してもらいたい新しい製品があったので早速診察して頂き、うまく目当ての製品を使わせて頂くことができたので喜んでいたら、支払いを待っている間に看護師さんがその製品の強烈なライバルのリーフレットを持ってきて、「先生が処方した以外にも、こんなお薬もありますので、よろしければご覧になってみてください」と言われて驚いたことがあります。
ここで重要なポイントは、HCPの方にもひとりのプロフェッショナルとして敬意をもって接して下さいということです。
プレゼンテーションの上手な方は、参加者の方とやり取りをしながらインタラクティブなプレゼンをします。MRの方の中には、会社で決められた「言うべきこと」が時間内に収まりそうもないという不安から、とにかく一方的に説明して、最後に質疑をしようとする方が多いですが、これは確実に損をしています。
ぜひ対面の製品勉強会では、説明の合間に先生だけでなくHCPの方々にもしっかりと投げかけや質問をしてみてください。HCPの方にしっかり投げかけをしてみてください。ひとりのプロフェッショナルとして意見を聞いてみてください。この例から分かるように、診療科によっては大きな効果を発揮するはずです。15分のプレゼンなら5分に一度、3回を目標に話しかけましょう。
もう少し詳しく言うと3回目の投げかけはKOLの先生。でも、最初の2回は先生以外のHCPの方に。これで全体の参加意欲が上がって、場の空気を変えることができれば大成功です。15分であれば5分に一回です。
ちなみに、なぜ5分に1回が推奨かというと、人間の集中力の問題があるためです。聞くということに対する人の集中力は、それほど長く続きません。亡くなられましたが、米国発で世界中の研修講師の師匠だったボブ・パイクさんという方の書籍『研修デザインハンドブック』に効果的な研修構築のコツとして書かれていたことですが、人が受け身で興味を持って聞いていられるのは8分程度なので、8分に一度は参加者に参加できる機会を作ると良いとのこと。
オンラインですと、この集中力はもっと短くなります。私はオンラインでは5分に1回を目処に参加者に話しかけています。お忙しい先生方の時間を無駄にしないことがベースのみなさんの業界では、おそらくさらにスピードアップが必要です。つまり5分以上続けて一方的に話すのは危険ではないかということです。
事前調査の重要性
「短い時間で先生と人間関係を作るにはどうしたらよいですか?昔なら毎日通って少しずつ人間関係を作り上げたのですが……」短時間での人間関係構築には、準備が重要だと思います。
「それは業界外の営業の場合で、私たちはお忙しいドクターが相手なのですよ!」と、いつもなら反発される方もいそうなのですが、今回初回の面談(診察ですが)で先生と人間関係はスパッと構築できたと断言できます。
私は診察室に入る前からめちゃくちゃ準備して、「お忙しい先生」という前提を頭に入れて、20秒ぐらいで自分を知って頂くためのスクリプトを考えました。お正月明けの激混みの外来。この状況で即対応して頂くために、自分の何を伝えればいいかということを考えると、
- 医薬の進歩をサポートしたいと思って製薬企業さんのMR育成に力を注いでいること
- 関西医薬品協会で講演をするなど貢献にも意識を強く向けていること
- このあとも製薬会社さんの研修が続いていて、とにかく早くなんとかしたいこと
などの要素です。これが良かったのか悪かったのか、たまたま状況が極めて悪かったのかは分かりませんが、結果的に当日入院、そしてぎっしり詰まっていた手術スケジュールの中、翌日に手術をして頂くことができました。「おいおい、お前の説明ではなく、怪我の状況を端的に説明できるようにしておけよ」という突っ込みはなしでお願いします。状況を分かりやすく端的に伝える訓練は日々できているので、ここはクリアできたと思います。
この例から導き出せる答えは、MRさんからよく聞かれるフレーズ「忙しい診療科の先生と早い段階で信頼関係を構築するというのは困難である」というのは、単なる思い込みではないでしょうかということです。短い時間という制約のなかで、なんとかする努力をもう半歩だけ進めてみてください。
患者潜入記録のまとめ
整形外科に3日入院しただけで長いお話になってしまいましたが、忙しい診療科へのアプローチ、生きるか死ぬかに関係のない疾患プロモーションの難しさなど、自分自身もさまざまな気づきがありました。これをまたMRさんの研修に活かして、先生もMRさんもお互い効率の良いディテーリングができるように、今後もサポートをさせて頂きたいと思います。