In 理念浸透

ピグマリオンの設立記念イベント「経営理念で組織を変える、チームを変える ~あなたの会社の理念はなぜ浸透しないのか?」を開催させて頂きました。お話させて頂いた項目から本日は「経営理念は変えて良いのか?」をご紹介させて頂きます。

経営理念は、変えて良いのか?

最近は、LEDランプというのが長持ちするし、コストもかからないという事で、我が家も次々主人に
変えられてしまい、白熱球の温かみが好きな私は肩身が狭くなっています。しかし、より良いもの、使いやすいものがあれば、「変える」という選択肢は電球に限らず当然でてきますよね。

ここで皆さんに質問ですが、では、経営理念(経営理念、経営方針、行動指針を含む広義の意味で)は、変えても良いのでしょうか?特にご創業以来、面々と守り抜いて来られた大切な言葉を(社長様しかそう思っていないとしても)簡単に変えて良いのでしょうか?

実は、私はこれまで経営理念は絶対に変えてはいけない企業の原則であり不変のものだと信じていました。前職の創業者「7つの習慣」の書籍を書いたスティーブン・R・コヴィーの影響も大いにあったと思います。そのため、入社以来12年間、研修と経営理念の「融合」に拘り、「変える」という選択肢を持たないまま、経営理念の浸透に係わってきました。

ところが、ここ2年間、大学院で学術的に経営理念の先行研究分析に没頭し、経営理念に関する論文を書き上げる過程で、実は変えても良い、むしろ変えなければいけない理由があるという事に気づいてしまいました。研究をして行く中で2つの変化に気づいた為です。

経営理念の定義の変遷

経営理念を変えても良いと確信した変化のその1は、経営理念は、誰のものかという、主体の変化です。

経営理念に関する学術的な研究は実はまだあまり蓄積が進んでいません。1970年ぐらいから
漸く書籍や論文が出始めています。柴田仁夫さんという研究者が論文の中で各研究者の経営理念の定義を整理されていたのです。そして、それを見ると2000年ぐらいまでは、各研究者の定義の中に「経営者」のとか創業された方「個人の」と言う言葉が入っています。ところが、2000年前後から、経営理念研究者の定義から、経営者という言葉が消えて行きます。
以下柴田仁夫  “経営理念の浸透に関する先行研究の一考察” 『経済科学論究』 第10号 27-38頁 2013.  より抜粋
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中川敬一郎 1972 (『経営理念』ダイヤモンド社)
経営者自身によって公表された企業経営の目的およびその指導原理」

高田薫 1978 (『経営目的論』千倉書房)
経営者が企業という組織体を経営するに際して抱く信念、信条、理念」

鳥羽欽一郎・浅野俊光 1984 (「戦後日本の経営理念とその変化」『組織化学』Vol 18 No2 37-51頁 )
経営者・組織体の行動規範・行動指針となる価値観、あるいは指導原理」

浅野俊光 1991 (『日本の近代化と経営理念』日本経済評論社)
経営者あるいは企業が経営目的を達成しようとするための
活動指針あるいは指導原理」

松田良子 2002 (「経営理念研究の体系的考察」『企業情報学研究』第2巻第2号 89-101頁)
「公表された個人の信念、信条そのもの、もしくは
それが組織に根付いて、組織の基づく価値観として名文化されたもの。

伊丹敬之・加護野忠男 2003 (「ゼミナール経営学入門」日本経済新聞社)
組織の理念的目的と経営のやり方と人々の行動についての基本的考え方」

住原則也・三井泉・渡邊祐介 2008 (「経営理念継承と電波の経営理念人類学的研究」PHP研究所)
経営体を貫く事業の基本的信条や指導原理」

松葉博雄 2008 (「企業理念の浸透が顧客と従業員の満足へ及ぼす効果」『経営行動科学』第21巻第2号 89-103頁)
企業経営上の価値観ならびに行動規範を、企業の顧客、
従業員をはじめ利害関係者に示すもの。」

高巌 2010 (経営理念はパフォーマンスに影響を及ぼすか」『麗澤経済研究』Vol1.18,No1,57-66 頁)
組織体として公表している、成文化された価値観や信念」

渡辺康宏 2011 (「経営理念の組織的浸透と組織文化の成立に関する考察」『経営哲学』第8巻第一号155-159頁)
「行為や慣行の基底となる、経営体に固有の価値観」

田中雅子  2012 (理念浸透プロセスの具体化と情報化」『経営哲学』第9巻第1号21-31頁)
「社内外に公表された、経営者および組織体の明確な信念・価値観・行動規範」

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これは、つまり経営理念の主体が、経営者(社長)のものから、組織のものへの変わっているのです。

 

経営理念の文言の変化

変化の2つ目は、経営理念の文言がシンプルなものが増えて来たことです。多くの企業がここ数年で経営理念を誰にでも判り易く、行動を促すものに刷新しているのです。それは、流行という言葉で片付けられるものではなく、明確な理由がある事を発見しました。

経営理念の文言がシンプルで、判り易いもの変わっている理由

 

1. 変化への対応
商内環境の激変やお客様との価値共創を目指すならば、現場のメンバーの主体性が重要な要素になります。つまり上からの指示を待たずに、現場で個々人が速やかに判断できる、判り易い判断基準が必要になっています。

2. グローバル化
世界中のメンバーと協力企業と連携して仕事をする局面が増えています。現地法人のあるなしに係わらず、海外へのアウトソースなどもある事でしょう。様々な価値観を持つ様々な国のメンバーと仕事をする際には、仕事上の共通言語となる判り易い判断基準が必要にあります。

3. 中途採用の増加
新卒で一括採用をして、自社の哲学を上司が少しずつ刷り込み、徐々にその会社らしい人に育って行くというのは、昭和の話です。私は完全に昭和の人ですので、週に5日は(昔は土曜も半ドンと言って出勤)メンバーと仕事帰りに飲みに行き、「うちの会社はさぁ」と「うちの仕事の仕方はさぁ」とやっていましたが、そういう濃い関係性を維持する事で、お互いゆっくりと判りあっていったように思います。

ところが、今は、そのようなノミニケーションというような言葉も死語となり、終身雇用も崩壊。どんどん中途で人が入ってきます。途中から入社した方にも入社したその日から、会社のビジョン(方向性)と判断基準を理解してアクセル全開で仕事をしてもらう為には、シンプルで判り易い経営理念が必要になってきたのです。

4.テレワークの増加(目の前にいないメンバーと働く)
働き方改革の推進で、テレワークは増加し、今後ますます社外や在宅でITを使って仕事をする人が増えると予測されます。ワークライフバランスの推進という意味でも、働く人の確保と言う意味でも仕事の仕方は多様化します。

現代のマネージャーの現場の課題は、「目の前にいないメンバーをいかにマネージするか?」という事です。ここでも、判り易い共通のビジョン(方向性)を示す必要が出てきています。

経営理念をメンバーの拠り所・モチベーションの源にする
上記4つの理由の中でも、とりわけグローバル化やテレワークの増加は現場のマネージャーにとって大きな問題です。 目の前にいない部下と共に働くという事は、非常に難易度の高い事であり、悩みの種だと思います。ここで、チームメンバーのモチベーションという視点から考えてみたいと思います。

モチベーションは、ハーズバークの2要因理論が有名です。モチベーションを上げたり、下げたりする要素は外発的動機付(衛生要因)と内発的動機付け(動機付け要因)の2つであるという考え方です。衛生要因は、報酬や職場環境、人間環境などです。動機付け要因は、仕事の内容・仕事の意義・達成感・承認・責任・昇進 ・成長の可能性などです。

お金を貰ってやる気になるというのが、衛生要因の代表的なモチベーションアップの要素ですが、ところが、その後の研究では、このお金でやる気になるにも上限があり、日本円で、年収700万前後でやる気は頭打ちとなり、その後は800万もらっても900万貰っても、もう大して変わらんという状態に突入する事が多いそうなのです。しかも一度上がった給与や報償が下がった時には、その反動は物凄いものになります。まさにやる気が急降下します。(私、経験者です)

そのような状況で、いつまでも年収アップの餌だけでメンバーを引っ張る事、まして上へ行くほど不足する管理職ポストで今時の管理職になりたがらないメンバーをやる気にさせるなど至難の技。


それならば、明確なミッション(使命)示す事で、仕事に意義を感じて働いて貰う事で、メンバーのやる気と目線をひとつにしては如何でしょうか?というのが、私の考える「経営理念で組織を変える、チームを変える」の根拠です。

つまり、これまでの経営理念浸透の目的ではあまり上位に来なかった、「組織・チームの拠り所」として、「組織・チームのモチベーションの源」としての経営理念がこれからの職場で求められるのです。次回は、「判り易い経営理念の実例」をご紹介させて頂きます。

*イベントの内容の紹介は、この後のブログでも紹介させて頂く予定でが、ご興味のある経営者様、推進責任者様へは、ご訪問させて頂き個別に全内容をご紹介させて頂く事も可能です。info@pygmalion-hrd.comまでご連絡下さい。

*経営理念の変遷については、
ブログ「経営理念の変遷・良い経営理念のチェックポイント」でも触れています。