オンラインで4000人に展開する浸透活動
完成したパーパス・バリューをどのように浸透させて行けば良いのか?今回の事例は、オンラインで展開するパーパス・バリュー浸透ワークショップです。
拙著「パーパス浸透の教科書」(マネジメント社)では、アンバサダーという社内旗振り役での浸透方法について、解説していますが、今回の事例はアンバサダーという旗振り役になる人たちをサポートするために外部から講師が入って一気に浸透を加速させようという試みです。すでに出来上がっているパーパスを短期間で浸透させたい場合にも参考にして頂けます。
お客様は、世界中で事業を展開するグループ従業員約4万人の製造業、特殊技術で業界を牽引されてきた歴史のある企業です。2022からパーパス・バリュー策定の支援を行い、2023年には世界のリーダートップ500人にパーパス・バリュー浸透ワークショップを実施、同年から課長クラス900名をアンバサダー(浸透の旗振り役)に育成するワークショップを展開しました。
浸透ペースをさらに加速させるために、2024年7月からは一般職向けのパーパス・バリュー浸透ワークショップを90分のオンラインで開催することに決定。主に国内の社員向けで対象者は約4000人です。
正直、最初は対象人数の多さに途方に暮れました。しかし、コストを抑えながら短期間で浸透させることを目標に、オンラインで500人ずつ開催すれば8回で完了するというプランを立てました。実際には、工場のシフト調整などを考慮し、300~400人ずつ90分のオンライワークショップを計11回開催しました。
オンラインで刺さるのか?
実は企画から実現までに1年かかりました。お客様がオンラインで500人ずつという研修スタイルに疑問を持たれたからです。私自身は、パーパス以外で実施している営業研修で800人規模のオンライン研修を何度も経験していましたので不安はありませんでしたが、「オンラインでは刺さらないのではないか」、「パーパス浸透はやはり対面が良いのでは」という当然の疑問であり懸念でした。結果は、一大ムーブメントが起こるほどの大成功でした。ちょうど社長が全国の事業所を回って開催するタウンホールもあり、そこでのパーパス・バリューの話とシンクロしていったのも成功要因のひとつですが、今回の成功の鍵は、「インタラクティブさ」(双方向性の研修設計)です。一般職全員の強制参加研修で匿名のアンケートで満足度は、5点満点で3.9です。
満足度に関しては以下のようなコメントを多数頂きました。
他の事業所の方の沢山の意見を聞けて面白かった。
研修前と後で、こんなにもモチベーションが変わるものかと驚いた。
パーパス・バリューはとても抽象的なものに感じていたが、説明を聞いて普段の行動につながっているのだと実感した
出来上がったものの浸透の難しさ
完成してしまっているものを「浸透」するというのは、とても難しいのです。具体的には共感を生み出すという部分です。今回は、たまたま策定ベースから参加していましたが、多くの企業で課題と感じられているのは、すでにあるパーパス・バリューをどのように浸透させればよいかということだと思います。
浸透には、パーパス・バリューを理解するだけでなく、共感するということが非常に大切ですが、「共に作り上げる」という最も共感を生みやすい段階をすでに通り過ぎている場合、他の手法で共感を生み出す必要があるからです。手垢のついた言葉ではありますが、「自分ごとにする」という言葉があります。多くの企業で浸透の企画をするときに、飛び交う言葉です。
しかし、「自分ごとにする」とか、「自分ごとになっていない」というのは、あくまで会社側の言葉であって、このままぶつけても従業員には迷惑でしかありません。その両者の齟齬を埋めて浸透策を練り上げることに難しさを感じています。具体的には、パーパス・バリューの浸透は、社員の成長のため、働きやすい職場づくりのためというスタンスを崩さないようにしました。最初から「働きがいのある職場」などと言ってしまうと、大きなお世話という感じになるためです。
オンラインのシステムを最大限活用
今回も、手法としては書籍「パーパス浸透の教科書」に書かせて頂いた、パーパス・バリューをかみ砕く「つまどう会議」(つまりどういうこと会議)をオンラインで行いました。このパーパスは、つまりどういうことなのだろうか?このバリューには、どのような意味が込められているのだろうか?私のバリューの解釈は、つまりこういうことだなどを共に考えていきました。
問題は、共有の仕方でした。Zoom Webinarで開催でしたが一方的にならないように、毎回パネリストを約30名指名して、その方には画面オンでの参加を依頼し、途中何度か講師とのやり取りにもお付き合い頂きました。本来のウエビナーシステムは、参加者とのやりとりは出来ませんが、パネリストという方式を活用しインタラクティブさを重視したオンライン研修のスタイルは、非常に効果的で好意をもって参加者に受け入れられました。
また「つまどう会議」は、対面研修ですと、模造紙演習となりますが、オンラインで模造紙演習をするのはやり方に慣れていないと、とても難易度が高くなります。実際90分間を休憩なしで有効活用していくためには、ものすごい進行で進める必要があり、新しい機能の説明をゆっくりする時間はありません。また今回は毎回300人以上と人数が多すぎたため、オンライン研修でよく行われる小グループに分かれての議論(ブレークアウトセッション)も使うことができませんでした。さらにチャットを使うと人数が多すぎるために、くるくると、すごい勢いでチャットが回ってしまい、字を読み取ることができないという、かなり困難な状況。
その中で選択したのが、UMUというオンラインで使えるシステム(アプリ)でした。もともとはオンライン学習のために開発されたアプリで、オンライン上でディスカッションをしたり、意見を可視化したりすることができます。事前に開催ワークショップごとに、クラスルームをオンライン上に作成しておき、ワークショップ内でする質問は、URLとQRコードで共有しました。ワークショップ内ではチャット欄にURLを打ち込み、そこから入力をしてもらいました。
UMUというアプリは、共有のための可視化の方法もいくつか種類があるので、ある議論では綺麗な色別の丸い枠の中に文字が入る形で共有したり、ある議論では、単純な長方形の枠の中に文字がでるようにしたりして変化をつけました。書き込みが終わるとほかの人の書き込みを見ることができたので、参加者の皆さんに気に入ったコメントには「いいね」を押して下さいとお願いをしました。すると、「いいね」の数が多い、みなさんが良いと思ったコメントが上段に上がってくるので、画面共有をしながら、それを講師が読みあげていきました。
このように、参加者全員が書き込む、パネリストの方々とディスカッションをするを繰り返すことで、飽きずに楽しめるワークショップ設計を可能にしました。アンケートのコメントを紹介します。
パネリストがいたり、リアクションで反応できたり、研修を素直に楽しめました。
あっという間の1時間半でした。システムを使ってインタラクティブなワークショップにしているのが印象的でした
色々な人のコメントが見ることができ「いいね」を押せるシステムは非常に良いと感じた
その場でいろいろな人の意見などを見ることができ有意義でした。
匿名で意見を言えるシステムに驚きました。
通常、名前を呼ばれても正直に言えない部分があるのでとても面白かったです。この形式の研修は初めてでしたが、いいと思いました。複数人を一気に対応できるだけでなく、複数人の情報共有も可視化できる手法は、新しいと感じました。ワクワクします。
一般職でも考え易くする工夫
一般職への浸透活動の展開は、管理職より難しいと感じます。そもそも一緒に会社を良くしようというのは、管理職には通用しますが、彼らには興味のないことですから、パーパスから所属組織の未来を考えたり、世の中への価値提供を考えたりするのは非常に難しいと感じるのです。今回は、幸運にもすぐ上の階層900人に、対面1日研修でパーパス・バリューの浸透ワークショップを実施していましたので、「つまどう会議(つまりどういうこと)に関しては、その課長職研修で共有の結果として書かれた模造紙を共有作業のまとめとして使用しました。
これは、2つの意味でとてもよかったです。まずは、自分の考えたことより直属の上司たちの考えたパーパス・バリューのほうが、当然ですが深さや広がりがあったこと。視野が広がったと感じた方多かったように感じました。また、その自分たちより視座の高いアウトプットを見ることで、直属の上司に対しての尊敬が生まれたことです。全国のどの拠点、どの工場の上司が議論したものか判るように部下の育成に燃えているコメントが書かれた模造を共有していたので、「うちの部門の上司が!」というリアリティも生まれたようです。
それぞれの企業文化に合わせていく
今回は製造業の事例を紹介していますが、この「どのポイントが参加者の心に届くのか?」というのは、業種や社風によってもかなり違います。みなさんの会社でもぜひアレンジして、浸透活動をしていただければと思います。今回は、パネリストを指名したり、アプリを活用した匿名の書き込みで大人数の意見を可視化したことで、つかみどころのないほどの巨大組織のメンバーに一体感が生まれたこと、また各拠点の課長職のアウトプットである模造紙を共有したことで、視座がひとつ上がり、かつ上司への尊敬の気持ちまで副産物として生まれたことで、大きな成功につながったのだと思います。お見せ出来なくて残念ですが、それまで何度も見ていたはずの会社の「パーパスのビデオ」(5分ほどのもの)をワークショップの最後に流したのですが、毎回いいね!の山になりました。その感動は終了後も続き、アンケートのご案内をしていても、まだいいね!が続きました。
人数が多くてどこから手をつけていけば良いの判らないと諦めずに、ぜひみなさんの会社、組織でも社員の心を動かすオンラインでのパーパス・バリューワークショップにチャレンジしてみてください。


参考資料と関連事例
社内で進めるパーパス浸透に関しては、ぜひ拙著「パーパス浸透の教科書」(マネジメント社)をお読み下さい。ご相談は、お問合せフォームからご連絡いただければ幸いです。
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