In 導入事例, 経営理念(ビジョン)

昨年は、外資系製薬会社様の経営理念刷新プロジェクトに入っておりましたが、年明けから今度は、従業員約400名の日系製薬会社様で経営理念刷新プロジェクトに入らせて頂いています。

こちらの会社は、これまで特に大きな波乱もなく、堅実に事故無く患者様に御製剤を提供され、ご創業から100年近く、恙なく過ごされて来た企業です。そのような将来に渡って安定、基盤盤石と思われた企業においても、時代の変化に直面する時が来ます。今回は、変化に直面されている皆様の意識変革のサポートと、新たなステージに挑戦して頂くエネルギーを創り出す為、社長様から直接ご指名を受けプロジェクトに入らせて頂きました。

今回のご依頼頂いた社長様の目的は、「組織のビジョンを打ち出したい」うちの会社には明確に定義されたビジョンがないという事でした。この時点で社長様は就任されてまだ数カ月でしたので、兎に角方向性を明確に打ち出したいという想いを非常に強く感じました。私の方からのご提案は、それであれば、その過程を通じて組織課題の解決を狙いましょうという事でした。結果的に、想像を遥かに超える素晴らしい成果を掴む事ができています。

全社参加が理想だが・・・・・策定ワークショップの適性人数

プロジェクトのスタートは私のスケジュールの都合で2020年1月でしたが、昨年8月から打合せをはじめました。社長と人事部長の方とその最初の打合せは、「企業規模からして社員の10%以上、最低でも30名は必要」という私の意見に対して、「いやいや、うちはそんなに集められない」という押し問答からスタートしました。少人数で作るなら、私のサポートにお金を払わず、(どうせ浸透しないので)社長お一人か、役員会で策定して下さい、社員の皆さんで作り上げるからこそ浸透しますと見栄を切ったものの、常日頃会社の事など考えなくても仕事は回ると思われている人が沢山集結してワークショップが機能しなくなったら怖いなという気持ちも正直少しありました。しかし、本当に何度も力説させて頂きますが、理念浸透の最重要ポイントは、社員の皆さんの「共感」(情緒的共感)です。この共感がなければ、頭で「理解(認知的理解)」をしても、「行動」(行動的関与)に繋がらないのです。

製薬会社様と言ってもかなり特殊なご製剤でした。社長様とも2度の打合せをさせて頂き詳しく目指すべき姿をお聞き致しました。私の方も、製薬メーカー様とのお取引が多いとは言え、はじめてのご製剤領域、法律や事業背景など勉強やヒアリングをさせて頂きワークショップに臨みました。解決すべき課題については、非公開とさせて頂きますが、大きく言えばビジョンを作り上げる過程で組織モチベーションを向上させ、積極的に新しい事へ挑戦する意欲を醸成することです。

研修の様子

研修の様子をご紹介しましょう。まず、最初に取り掛かるのは、選抜で集まったメンバーの変化に対するパラダイムシフトです。この組織の現状を俯瞰的に正しく認識して健全な危機意識をお持ちいただき、御自身の成長の為に、変化に前向きに取り組む姿勢を持って頂くのです。このパートは、各社の課題によって変わります。かなり手ごわいのはと予想していましたが、案ずるより産むが易し、脳を酷使するので半日コースで5時間と、わざと1日コースにしていないのですが、このメンバーなら1日でも、大丈夫だったかも知れないという印象を受けました。

いざ、ミッションを作るとなると・・・・・・・・・

課題を認識する為に、こうあるべきだというのが発見できると、いよいよミッションを作る演習に入ります。今回は、できるだけシンプルにと言う事で、1行のミッションを作ることにしました。この1行ミッションをタグラインと言っています。タグラインとは、会社の存在価値を一言で表したものです。

ここからは、共に会社の存在価値や目指すべき方向について議論して行きます。それぞれの演習時間が45分や60分と長くなりますが、参加者にとっては逆に幾ら時間があっても足りないという状況に陥ります。今回は、最後の成果物を出す演習の持ち時間を使い切った後、全グループに対して視座の低さを指摘してやり直しを指示させて頂きました。どのグループも、例えば、「現行製品の売上を下げないように」であるとか、現行製品で生き抜く為の適用拡大(承認済ですでに販売されている薬に現状以外の効能を追加して認可を貰う事)の議論など、今あるものを改善するレベルでしか思考しておらず、もっとグローバルに、もっとあるものを発展させてという視点が必要だと思ったからです。「そんな縦のものを横にするような考え方でいいんですか?」「必要な事は改善でなく、改革ですよね、英語で言うとトランスフォームですよね」とガンガン言われて、良く皆さんついて来て下さったと、後から考えると冷や汗ものです。

この製薬会社さんでの未来の議論で出て来た製薬会社さんのトランスフォームに関して「適用拡大」「剤型変更」程度の議論ではダメだと私に力説して下さったのは、絶対ご本人は覚えていらっしゃらないと思いますが元製薬会社の社長さんでした。その会社は、うがい薬の会社で、うがい薬からスプレーになり、マスクに添付してと展開されていたのを、もっと飛躍が、もっとパラダイムシフトが、もっとオーナーシップを持って行動する事がこの会社には必要と恐らく当時は、お恥ずかしい程、役にたたない研修会社の営業の私に教えて下さったのです。同時にホワイトボードに図を書きながら、MRを1名育成すると幾らかかるかを説明して下さったのすが、今でも、その時の社長室に差し込んでいた光の具合迄覚えています。話が脱線しましたが、全く実現できそうもない夢を語れと言っているのではありませんが、視座を高く議論して頂く事は重要です。

残り8分の奇跡

そして、2度の時間延長を繰り返し、最後の最後、もう残り8分ですとなった時、各グループに物凄い集中が生まれました。恐らく、このような極度の集中状態にこれまで仕事で入った事のなかった方もいらしたのではないかと思う、究極のフロー状態(没頭)が作られました。そこから出て来た言葉は、「親会社の資源を全部使ってグローバルになってやろう」であったり、「日本の○○製剤事業を私たちで変えよう」であったり、出来上がった言葉こそコピーライターではありませんので、抜群に素晴らしいかと言われればそうではないのですが、発表で共有されたそれぞれの背景にある想いが兎に角素晴らしいものとなり感動しました。これを草案にプロジェクトチームが練上げ、経営層に諮問をして行くのですが、この想いを引き継がなければと決意をします。

そして、改めてこのワークショップの重要な意義のひとつは、組織の方向性に「共に考える事」であったと確信します。そして、組織の約10%のこの方たちが、若手リーダーとして、良い影響者(インフルエンサー)として今日考えた事を周囲に広げて行くだけで、ミッション・ビジョン・バリューがどのような形になろうとも、もうこのプロジェクトは成功ではないかと思えました。

実は、この最後の8分の体験は、私も拝見していて驚きましたが参加メンバーにも強いインパクトがあったようです。2回目のワークショップの議論のスピードが飛躍的にあがり、その議論のスピードが速くなった事を皆さんが誇らしく、楽しいと感じておられる事がアンケートからも判りました。ゆっくり丁寧に100%の仕事をしようという仕事の仕方をもしこれまで良しとされて来られたのであれば、限られた時間で確実にアウトプットを出すのも、楽しいし、やりがいがあるのだという事に皆さんで気づかれたようです。うっかりメンバーを変えるのを忘れて、第2回の当日あいうえお順でグループ分けをしたのですが、それでも議論が各グループ盛り上った事もプラスの評価につながりました。このような体験を通じて、それぞれの方が組織で成功するスピードを速めて頂けるような「仕事の仕方」を身に着けて頂ける事は、私にとっても大きな喜びです。

前回のグループとメンバーが変わってもアウトプットのスピードが落ちることがなく、前向きに議論ができればこんなにも早く目的を達成できるということを痛感した。

目に見えて第1回より活発な動きになったなと感じました。

(印象に残った点は)ブレストのスピード感が増したことがです。全く会議が動かないという場面がなかったことが印象的でした。

皆で本当に積極的に意見交換ができたので、時間があっという間に過ぎ、質の高いアウトプットができたと思う。  このような雰囲気で各現場の仕事ができたらどのくらい変わるのだろうと単純に思った。

単に時間を掛けるのではなく、限られた時間軸でのディスカッション・纏めていく内容は、ビジネス視点でも成長し力が発揮できる人財育成にも繋がっていると感じている。

30~40分かけて納得のできるビジョン作成できなかったが、残りの10分で納得のビジョンが作成できたこと

勢いとスピード感があり、自分も参加していると実感できるワークショップだと思います。管理職はいるものの、本当の上層部がいないので忖度なく自由に自分の思いを発言できています。

第1回のアンケートコメントから

会社は何のために存在するのか?どのような価値を提供するのか?のグループディスカッションを行いましたが、

当初、現状の製品についての将来性と捉えていたため、前向きな話しがでずに行き詰っていました。しかし、追加で検討の時間を設けることで、視野が広がり、環境変化もプラスに捉え検討することができた。

今回のワークショップで集まった30名が同じような捉え方だったので、将来ビジョンを全社に共有することでモチベーションアップにつながると思いました。

最も印象に残ったのはタグラインの作成についてです。今までは経営理念は覚えるものという認識しかなく、深く考えたことがなかったです。柏さんのお話を伺い、経営理念を設定する意味、情緒的共感が必要な理由、経営理念の文章量など一つ一つ意味のあるものにしていかなければいかないのがよく理解できました。また、ワークショップについては柏さんの忖度なしのまっすぐな意見を伺うことができて非常に有意義な時間を体験することができました。会社の会議では忖度しかないため非常に意見も言いづらく、目的も曖昧な会議ばかりなため部署が異なる様々な部門の方と議論できる仕組みがたくさんあり、他部門の方を知らない若手としては貴重な経験となりました。

他社のミッションを紹介してもらい、うまい・へたに関わらず、各企業のミッションに対する思いや伝えたいことを知ることができ、如何にミッションが企業にとって重要なものかが十分に理解することができました。初回のワークショップを終え、改めて本ワークショップの重要性と、責任、やりがいを感じています。

会社のミッション(経営方針)などは、経営層が考えるものだと思っていましたが、今回のワークショップ開催自体に驚きを感じたとともにその策定メンバーの一員となったことと、ワークショップが進むにつれて”イイもの”を作ってやろうという気になりました。また、他社のタグライン(例)をいくつか示して頂き、”イイもの”のイメージも出来ました。今回結集されたメンバーで、次の100年に向けての“イイ”ミッション・ビジョン・バリューを策定したいと思います。

全体を通して「会社に対する自身の期待と現状とのGAP」を考える良いきっかけになりました。また、制限時間内でのアウトプットを意識することで集中して取り組めました。参加メンバーとのディスカッションでは特に「会社の価値」について多様な考え方に触れることができ、変化だけではなく守るべき価値観も大事にしないといけないと痛感しております。

自分も含めメンバー全員の意識として、親会社の変化に伴う自社への影響について認識しているはずだったのに、それを実感として持てておらず、発想・思考が自然と旧来のままだったということが衝撃であり、印象に残りました。今回のプロジェクトを通じて、自分・周囲のメンバーが新たな意識を持つきっかけになれたらと考えています。今回のプロジェクトはその意識を伝えたい場でもあったのかなと感じました。

最終決定に向けて

最終的に2回のワークショップで30名、5グループで作った5つの草案を、各グループから2名選ばれた選抜メンバー10名のプロジェクトメンバーでまとめます。勿論私も参加します。この議論は5時間にも及び、そもそも論から考えなおしを行いましたが、ここでも最後に奇跡のようなアイデアが生まれました。出来上がった草案を経営層に提案し、コメントを貰い修正依頼があれば修正します。ここで経営層に一度弾かれる可能性は、現在4社やって4社、100%です。当然経営層にも様々な拘りがあります。ただし、そのうちの1回は、弾かれたものを、そのまま弾き返して原案通りで決まっています。今回は、なるほどと思われる新しい視点を社長から提示して貰えたので、またメンバーと揉んでみようと思います。ビジョン策定については、改めて書かせて頂こうと思います。