In 理念浸透

前回のブログエントリー「職場の孤独を考える~テレワーク時代のコミュニケーション」では、テレワーク時代のコミュニケーションは、少ないフェイス ツー フェイスの機会を有効活用すべく、各自コミュニケーションの際に、人だからできるエモーショナルな部分、情緒的共感を意識すべきという事を書かせて頂きました。本日は、職場の孤独の解決方法の一手段として経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)を活用する方法についてお伝えします。前回のエントリーをすでにお読みの方は、共通の価値観と共通のゴールからお読みください。

職場の孤独‐企業に広がる”病”にどう対処するか

ハーバード・ビジネス・レビューの今月号(2018年6月号)の特集は「職場の孤独‐企業に広がる”病”にどう対処するか」です。前米国連総政府 公衆衛生局長官のビベック・マーシー氏は、その寄稿論文「成人の4割が自覚し、寿命を縮める病”職場の孤独”という伝染病」の中で、孤独とは、社会的なつながりが十分でないという主観的感覚であり、過去数十年でこの感覚が増していると述べています。

孤独の原因としては、職場の問題に限らず、ひとつには地理的に可動性が高くなり、友人や家族と離れて暮らす事が増え、実際米国では、現在一人暮らしの人が最も多くなっている事があげられるとの事、日本でも未婚、晩婚の方の増加で同じように一人暮らしは増えています。国立社会保障・人口問題研究所が今年1月に公表したデータによれば、2015年時点での日本の一人暮らしの比率は、34.5%で、2040年には39.4%になると予測されています。

家族・友人との絆は薄くなり、そして、そもそも働いている世代では、実は家族よりも職場の人間と過ごす時間が長いにも係わらず、ITの進化と働き方の変化で、関係性は希薄化する一方です。

職場では、在宅勤務、単発型の雇用形態など、新しい働き方の出現により柔軟性が高まっているが、直接の交流や関係づくりのチャンスは減りやすい。また、出勤して働いても有意義なつながりが保証されるわけではない。オフィスには、同僚がたくさんいる。(間仕切りのなオープンプランのオフィスさえある)にもかかわらず、全員がコンピュータを見つめているが、人間的なふれあいのない会議に出席しているかだ。(「成人の4割が自覚し、寿命を縮める病”職場の孤独”という伝染病」より引用)

隣同士お互いに何をきにかけているのかも知らず、お互いの価値観も知らず、勝利の喜びや痛みも共有していないのではないか、このような状態が職場の孤独と言う状態であり、孤独はストレスを引き起こし、慢性的なストレスは意思決定、計画立案、勘定調整、分析、抽象的思考を司る脳の前頭前皮質を占拠してしまう事もあるとマーシー氏は、警告を発しています。

共通の価値観と共通のゴール

昨年私は、2年間に渡る大学院での経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)の研究と調査を経て株式会社ピグマリオンを設立し、経営理念浸透サポートと提案営業力強化をふたつの柱に据えました。

この1年で、沢山の理念刷新、理念浸透支援のお手伝いをさせて頂きましたが、何の為、どのような目的を持った経営理念の浸透策が一番多いと思われますか?

  1. 良質な企業文化の醸成
  2. 多様なメンバーと働く為の共通言語作り(ダイバーシティ・テレワークなど)
  3. モチベーションの向上(社員定着率の向上)

実は、もう圧倒的に3の「モチベーションの向上(社員定着率の向上)」の為というのが多いのです。先日ある会社で理念を刷新されたいという事で、役員の方向けにプレゼンテーションをさせて頂きました。この3つを良くご相談頂く理念浸透の目的の例としてご紹介して、「社長の所は、何が目的ですか?」と伺いますと、間髪を入れず、「モチベーション、モチベーションです!これです、これ」というような、非常に勢いのあるご返答を頂きました。

ちなみにその会社は、グローバル企業で私はすでに本社ホームページなどで、そのグローバル方針などを理解したつもりで臨んでおりました。そこには「〇〇(社名)カルチャー」の浸透という大きなテーマが掲げられていたのです。その為、わざわざ一番上に良質な企業文化とパワーポイントで映し出していたのに・・・・・スタートから大きく仮説を外し、滑ってしまって内心おおいに苦笑いでした。

しかし、これは経営者のお立場であれば、しごく当然です。経営理念浸透と言った時に結果を掴まなければ意味がない、課題を解決しなければ、意味がないのです。話を職場の孤独に戻しましょう。

もしあなたの職場にマーシー氏の言うような「職場の孤独」状態が見られるのであれば、経営理念を活用されて、共通のゴールを持ち、個々人がそれに向かう事で「仕事の意義」を感じ、モチベーション高く仕事に取り組む状態を創出されてみてはいかがでしょうか?企業文化の醸成というような、ふわっとした言葉でなく、具体的にです。

因みに、前職の外資系コンサルティング会社でも、12年間、当時は「ミッション(使命)」という事に拘って仕事をしておりましたが、当時の所属している会社では、個人の使命を明らかにする手法で定評がありましたが、こと組織になると「企業文化の創出」という所に偏りがちであったと感じています。その為に私のコンサルティング能力では、この「文化を変えましょう」というメッセージでは、具体的に何を解決するのかは、お客様に伝わらず、よほど資金力に余裕のある会社でなければ、組合わせでなく、このテーマ一本で研修を導入することはなかったように感じます。(あくまで個人の感想です)

仕事上のつながりを築く

では、仮に経営理念浸透で上記のような、マーシー氏は、同じく「成人の4割が自覚し、寿命を縮める病”職場の孤独”という伝染病」の中でこのように述べています。

私の経験によれば、人はそのミッションや周囲の人とつながっていると感じた時に、仕事で最大限の成果を出す。

その実際の経験として、公衆衛生局長官だったことのチームの様子や、お互いの距離を縮める為に導入した、スタッフ・ミィーティングでの5分間自己紹介の演習などを紹介しています。持参した写真を通じてなんらかの自己紹介をするこのプレゼンテーションは、自分という人間をもっと伝える機会となり、それを聴くのは同僚の事を本人が望むように理解する機会になったそうです。

多くのメンバーが従来の役割以外の業務も引き受けるようになった。仕事中のストレスも減ったように見えた。そして殆どのメンバーが、同僚とのつながりや、ミッションとのつながりが増した気がすると述べた。

実は、私は気がするではなくある会社でのデータを持っています。理念を刷新した企業でとらせて頂いたデータです。これが、私が経営理念を共に考える機会は、従業員のモチベーション向上に大きなインパクトをもたらすと確信をしている理由です。

こちらの企業では、約400名の社員方から選抜された50名で、ビジョンとバリュー(行動指針)を刷新する研修を2度に渡って行いました。IT企業様でお客様先常駐をされている方も多く、普段あまり話す機会もない社員同士で、会社の未来を考え、そのためにどう行動すべきか?と考え抜くワークショップでした。最初の1日研修で共にビジョンの叩き台を作り、経営陣によって最終決定されたそのビジョンをもとに2度目の研修は、バリュー(行動指針)を共に作ったのです。研修アンケートでは、会社への期待を10点満点で何点になるのかを伺っておりました。

結果は、共にビジョンを創り上げた時点で会社への期待は、10点満点の8.57平均となり、さらに共にバリュー(行動指針)を創り上げた時点で9.2平均まで上がったのです。

ミッションで繋がるという事は、仕事の成果を最大化する為の非常に重要な要素だとマーシー氏と同じく、私も確信しています。