In 導入事例, 経営理念(ビジョン)

ビジョンは、経営陣が示すべき

経営理念の作り方は様々ですが、私はミッション(使命)・ビジョン(経営方針・方向性)・バリュー(行動指針)の3階層型の経営理念を通常作って頂いています。

私は、経営理念を社員で作り上げることこそ共感を生む為の最高の方法であるというのが持論です。しかし、ビジョンにおいては少し違います。ワークショップにおいて、ビジョンは、最初から確定の文言を提示するか、3項目までぐらいに絞って目指すべき姿を経営陣から提示して頂き、それを文言に纏めるという方法を推奨しています。お勧めは後者の方です。ある程度の方向性やキーワードを示して頂く事をお勧め致します。全社員で、または若手次世代リーダー等を中心にミッション・ビジョン・バリューを作って頂く際に、流石に会社の方向性を丸投げするのは、作る方も負担ですし、何に向かって良いのか判らない為です。

もしどうしても確定文言状態のビジョンを頂く場合は、事前に拝見させて頂かないと正直困ります。ミッションとバリューとの整合性が取れないというリスクがあるからです。3階層型の経営理念で真ん中のビジョンだけ昭和な感じとなるリスクです。

ビジョンは経営層で作ろうと独自の視点ですでに役員会で作られてしまうと、後戻りができませんので、その場合は役員の方の策定プロセスにも入らせて頂くか、より良いものを作る為に内容を変えずに文言は、上下の文言に合わせて変えて良いという許可を頂く必要があります。

想定より社長の想いは浸透していない

では、ビジョンが確定されている場合、経営理念策定を任された社員がビジョンを議論しなくて良いかと言えば、そんな事はありません。たとえビジョンは事前に経営層から確定版を提示して頂いたとしても、ミッションを作成する際に、十分会社の将来について既に示されているビジョンを元にすっきり腹落ちするまで議論をして頂く必要があります。社長の考えている程、会社の方向性は理解されていない為です。

外資系製薬会社様の経営理念刷新事例でもお話していますが、大切な事ですので、再度申し上げますと、この経営理念刷新過程で示された会社の向かうべき方向に納得するという事が策定に参加される社員の方にとって、まず、最初のハードルになります。寝耳に水と大騒ぎになっても不思議ではありません。

昔から石鹸を作って来た会社に、会社の方から「これからはシャンプーひと筋で行くぞ」というビジョンがいきなり出たら、石鹸づくりに誇りを持って来られた方は、納得も行きませんし、そのようなビジョンに共感できないという事です。おおかたの経営陣は十分説明したと胸を張りますが、一度や二度の会議でその話をしたとしても、社員にとっては全体の業務時間の1%にも満たない時間しか費やされていない、自分の業務に直接関係のなさそうな話を覚えはいないからなのです。

別の事例でも、ビジョンに関して「大丈夫社長はいつもこう言っています。みんな任されたら、ちゃんといつも言われている方向に向かいますよ」と毎月全社員にメール配信されている社長の社員向けニュースレターをどっさり渡されました。熟読させて頂きますと、確かに明確にビジョンを示されておられるようですが、これまでの経験からこれが、伝わっているかどかは疑問でした。私はコンサルタントとして当然背景情報を調べながら熟読する事になりますが、普通に考えて、メールで送られ来る社長の講和を熟読する社員が何%いるだろうか?という事です。

その他のアイデアとしては、ビジョンは極端な話、ビジネス環境によって明日変わるかも知れないし、変えるべき時は変えなければいけないので、もう経営理念自体を2層式にしてしまい、ミッション&バリューでビジョンは中期経営計画で3年毎に更新するか、毎年年度初めに経営層から提示するというようにしても良いと思います。これは、そもそも3階層の経営理念と言っても、その捉え方は様々ですので、各企業に適合するやり方をお勧めしています。次々と経営理念刷新をボトムアップでするお手伝いをしてきて、3階層とか2階層とかに拘るより共に会社の方向と自分たちの働き方を定義するだけで、十分すぎる効果が見込めると判って来た為です。

経営理念刷新事例から

実際の事例でご紹介します。今回のご紹介する経営理念刷新をする企業の社長のこだわりは、ビジョン。「ビジョンは、明確なのでビジョンだけは、キーとなる単語を策定の際に必ず入れ貰って下さい」というものでした。その文はとても短く要は殆ど決まっている状態です。そこから文言を練り上げる事になりましたので、前述の通り文言は、3階層型経営理念の前後に合わせて修正させて頂きますという事で始めさせて頂きました。ワークショップに参加されたのは、会社の中での次世代リーダーとして期待される方や各部門をひっぱって行かれる精鋭30名、そこで考えたものを集約して最終案を作り上げる選抜プロジェクトメンバーが5グループだったので、各グループから2名づつ10名選ばれました。

しかし、今回の策定過程でビジョンの部分は、奇跡的に修正できましたが、あとあと苦戦する事になります。

その理由は、今回社長から示された文言があまりにも完成度が高かったが為です。議論の過程は素晴らしかったです。今まで社長が事ある毎に言っていたにも係わらず、全く自分事でなかったものが、すっきり腹落ちして共に進む決意が生まれたと思います。しかし、いざそれを文言に整えようとした際、選抜メンバーが言葉を紡ぐ事に苦戦をして、最後には「このままでいい、このままにしよう」「だってこれ完璧だもん」といったん結論付けられてしまったのです。これには、流石の私も焦りました。今回の選抜メンバーは能力も高く、必ず自分たちの手で作って頂けると感じていた為に、それでは勿体ないと思えたからです。そして、すでに他の会社で確定版を渡されていた時の例が頭をよぎりました。

そこで、確定版を渡された場合の企業を例に出して紹介し、「この状況で社長の文言をこのまま残すとあとあと、“ビジョンの文は社長が勝手に作ったから”と語りつがれます。共感できないものは浸透しない、だからここで諦めたら浸透フェーズで大きな禍根を残すので、せっかくここまで考えたのだから単語ひとつでも、ふたつでも自分たちの手で付け加えた方がいいです。その方がへんな文章になったとしても、絶対にその方が良いです」と力説しました。幸いそこまでのワークショップで人間関係だけは自信をもって出来ていたので、ここは説得力を駆使するしかないという事で絶対などという普段は使わない言葉を使ってしまいましたが、皆さんの再度の頑張りでまさに奇跡のようなビジョンの草案が完成しました。全く今回のワークショップは奇跡の連続です。

現在、この策定プロセスはオンラインでプロジェクトメンバーとの会議を続けながら最終段階まで進んでいます。深めれば、深めるほど、自分たちの会社を良くしようという気分が高まって行きます。(2020年4月15日)

ミッションの作り方はこちらから。

経営理念刷新プロジェクト「ミッションの作り方」