In 導入事例, 経営理念(ビジョン)

今回は、会社の経営理念策定ではなく、部門のミッション・ビジョン・バリュー策定の事例です。組織を任されている部門長のみなさん、「このチームにいて良かった」「このチームが最高」「なぜならここで自分は成長できるから・・・」などとチームメンバーに言って貰えるような活き活きとした組織作りをされたいと思われませんか?

今回は、株式会社NTTデータフロンティア様の一部門にて組織のビジョン・バリューを策定するワークショップを11回、5か月に渡って実施させて頂きました。株式会社NTTデータフロンティア様は、従業員数11万人超、グループ総売上2兆円超という日本最大のシステム・インテグレータであるNTTデータグループの一翼を担われ、優れた技術力・開発力を武器に、特に金融業界向けシステムの開発・保守運用に強みを持たれる企業です。

その中でも今回支援させて頂いた部門は、新規ビジネスを生み出す為に昨年作られた新設部門、同社の中でも、攻守で言えば「攻める」のが使命のその飛躍を期待される部門です。やる気のあるメンバーが集まっている新設部門の存在意義と方向性を明確にして、共に成長する為の行動基準を作ろうという趣旨でプロジェクトをスタートしました。

5か月のプロジェクト全体像

プロジェクトの流れは以下の通りです。最初にアウトラインを決め、進捗度や参加メンバーの好むスタイルに合わせて、進め方は柔軟に変えていきました。すでに組織発足時に発表されていたミッションに対して、会社全体の経営理念を意識しつつ、組織の独自性を表現したビジョン草案を課長職で作り、本部長承認を得て、そこからそのビジョンを実現するためのバリューをプロジェクトメンバーが作り上げました。

Phase1
対象:課長職 11名
課長Day1 なぜビジョンの明確化は必要なのか?チームモチベーションの高め方/オンライン
課長Day2組織の目指すべき姿のディスカッションと良いビジョンの作り方/オンライン
課長Day3 組織のビジョンの草案を作る →本部長承認/リアルディスカッション
新年部門キックオフでビジョンの発表
組織サーベイ実施

Phase2
対象:次世代リーダー31名(選抜)グループA&B各約15名
次世代Day1 サーベイ結果の分析 およびビジョンの理解 私たちはどこへ向かうべきか
次世代Day2 組織のバリュー(行動指針・行動目標)の草案を作る/良いバリューの作り方

※6グループが自主的にオンラインミィーティングを設定、ワークショップ内での学びを生かして
各グループでバリューの草案を策定

次世代Day3 6 グループからのバリューの発表(6つの草案)
課長職Day4 6つの草案を課長職でまとめ→本部長承認

3月31日 プロジェクトメンバーへのローンチ(お披露目)
講師からプロジェクトメンバーへ浸透施策の3つのアイデアを紹介
4月7日 全部門メンバーへお披露目予定

作り上げる過程での組織エンゲージメントの向上

最終回のアンケート結果は、満足度4.6、完成したビジョン&バリューへの共感4.73、講師評価4.47となりました。この完成したビジョン&バリューへの共感が5点満点の4・73というのは本当に今回の素晴らしい成果です。

しかしながら課長職向けワークショップでは、第1回の満足度3.78、私としても久々の3点台となり、オンラインだけでこのプロジェクトを乗り切れるのか、正直若干の不安を感じました。「自分たちによるミッション設定ができればよいとは感じるが、それが実務の忙しさからも可能なのかどうか」というようなアンケートコメントも見られ課長職のみなさんも同じような気持ちであったように感じました。

第2回になると、満足度は3.71とまだ低いのですが、アンケートコメントは、かなりポジティブなものに変わってきました。

長く業務をやってきて、エンジニアにとって「あたりまえ」「常識」みたいな事が改めて重要なんだなと再確認した。その当たり前で常識的な内容を、うまい言葉でもう一度光らせてあげて、印象に残って貰えるようにしたい。

グループディスカッションを通して、成長の定義、顧客が求める価値としての考えが様々であることが理解できたとともに、こういった意見の違いが、偏りがない目線での議論となるのだなと思いました。

一方でまだ不安な方もいらっしゃいました。今回のメンバーはレベルが非常に高い方々でしたので、以下のような指摘も頂戴でき私としても非常に示唆深いワークショップとなりました。

ビジョンを組織とメンバーとの価値共創のためのツールとして、もし捉えた場合、今回のビジョン作成がメンバーへの一方的な提案にはならないのか?と危惧を感じました。そうならないための今後のValuesの取り組みかと思いますが・・・

非常に良いポイントをご指摘頂いています。つまりもしビジョンだけで終わってメンバーにバリュー策定をお願いしなかった場合は、ご指摘に通り課長職がみなさんの代表として作りましたといったところで、一方的な提案のような印象を持たれる可能性もありました。どのように巻き込んでいくのかという点は全体に対してのプロジェクトメンバーの人数や、ビジョンからバリューへつなげる際のインストラクションで十分注意が必要です。

バリュー作成の各グループワークが凄かった

今回のビジョン&バリュー策定ワークショップでの愁眉は、バリュー策定メンバーたちの頑張りです。作り方を学び、その作り始めの数十分だけワークショップ内で体験し、あとは個々のグループでのディスカッションで完成まで任された各グループメンバーの頑張りが兎に角素晴らしかったのです。ワークショップの設計としては、ワークショップ内での策定時間はわずかに50分。その時点で途中経過を発表し後は各グループの裁量に任されました。

アンケートコメントにもありますが、まさにどのチームも妥協なくバリューの草案を作り上げてきました。その要因のひとつは、今回の6グループのグループ分けの工夫があります。通常人事屋的にグループ分けをすると「できるだけ各世代を混ぜて多様性を尊びましょう」などと言っていわゆるバラバラにするのですが、今回はある程度世代の近い方でグループを分けました。話しやすさを優先したのです。(ちなみに私が考えた訳ではありません。この名簿を作られた方は現場を良く見てメンバーの指向性をしっかり把握されていたという事になります)

その結果、6グループのうち、2グループはかなり若手中心のメンバーとなりました。バリュー策定ワークショップの中で、途中経過を発表して頂いた際に若手は流石の頭の柔らかさを発揮した、いわゆるエッジの立ったバリュー案を連発しました。この中間発表が、「これはかなり期待ができそうだ」という各グループの想いを増幅し、結果的に全グループが全力を出して草案作りに励む事になります。あるグループは1カ月の期間中でオンラインミィーティング7回、計10時間を費やしたとの事でした。

バリュー草案となる6グループからの発表は、本当に素晴らしく、ワークショップ後の感想も結局言葉は違うものの想いは同じだったというような意見が飛び交いました。

個人の想いが組織の想いに昇華された

課長職からの最後のバリューの発表は、発表パワーポイントを作成してくれた課長職の方々の頑張りもあり、こちらも素晴らしい時間となりました。因みにバリュー完成の最後の最後の段階で共感が進み易いように私の方から専門家として、少しだけ魅せ方のアドバイスをさせて頂きました。それでは、最終アンケートのコメントの一部をご紹介します。

次世代リーダー選抜メンバー

特徴的なバリューが作成できたと思います。柔軟な発想を持てるメンバーがいることを頼もしく思いました。

思わずつぶやいてみたくなるような親しみやすさや想像しやすさがあり、すぐに行動にうつせるようなバリューとなり嬉しい。

どのチームも、妥協なくそれぞれの考えたバリューを仕上げてきたこと。真面目なの+思いがある というのが伝わりました。

年代(若い人からベテランまで)、いろんな方がいたが、議論の後、各チームから出てきたバリュー案は一定の「同じ」方向性を持っていて、メンバーの根底には同じ思いがあるのではないかと感じた。

言葉にして初めて皆が同じ方向を見ていることが分かり、個人の想いが組織の想いに昇華されたこと

バリューをチームで考えていたとき、最後の時間ぎりぎりになったタイミングで諦めずに考えたらいいアイデアがたくさん出てきた瞬間が印象に残っています。

リモートワークで普段人と話す機会が減っていたのでこういったワークショップはとてもいい機会だった。たのしかったです!

参加前は、理念や目標と聞くと「立派だなぁ」と他人事の印象でしたが、声に出して考えや解釈を議論すると、ぐっと身近なものになりました。

策定メンバーとして、「バリューについて議論をする」というステップを踏んだ事で、社内の他の皆さんがどんな価値観を大切にしているのか、具体的な議論を通じて知れた事が非常に大きな価値だと思います。

課長職

ビジョンとバリューの言葉にしがみつくのではなく、一体となってものづくりを行うという活動を積み重ねることがエンゲージメントを高める近道のように思います。メンバー自主性に任せると職域上どうしても自分のプロジェクト内でしか手をだせないので、部長・課長が継続していけるかが鍵になると思います。

バリューメンバーからの「やってよかった」という声がここまで聞けるとは思わなかったので、とても意義はあったのだと思います。

メンバーの士気があがることは、目標達成できる要素の一つになり得ることを実感した。あらためて自分だけの力で達成できる範囲には限界があるということを実感した。同時に目標を達成するにはチームで動くことが確実で近道な手段であるとも実感した。

浸透に向けて

頑張りぬいたプロジェクトメンバーが気にしたのが、「私たちは大丈夫だけど、残りの大多数のメンバーにこれが浸透するだろうか?」「使ってもらえるだろうか?」という事です。アンケートにもそのようなコメントを頂きましたので、最後のプロジェクトメンバーの発表の日は、時間を3時間に設定して前半は発表、後半は浸透の方法について私の方レクチャーさせて頂きました。この浸透方法については、組織の特性や嗜好に合わせて選ぶ事が大切です。

詳しくは私の論文に書かせていただいているのですが、理念の浸透は3つのパターンがあります。当事者意識と自分事化と仕組化です。

今回は、共に作るというやり方を採用していますので、仕組の作り方について3パターンをご紹介させて頂きました。3つのうちのひとつは、「つまりどういう事会議」というものです。これについては、また次の事例で詳しくご紹介させて頂きます。

おまけのセッションが心に響いた!

最後に少しだけ時間に余裕があったので、自分自身の効果的な目標の設定の仕方についてもご紹介させて頂きました。自分事化のプロセスです。おまけのセッションとして、出来上がった組織のミッション・ビジョン・バリューにアライン(一線化)して目標を作るのですが、その演習をやってみた後のある参加者の発言が素晴らしくて記憶に残りました。

「ここまで、もうひとつピンとこない部分があったのに、この自分の目標とつなげてみたら、最後に全部が腹落ちした」というような発言でした。「想いをエネルギーに生きる人を育てる」を自社のミッションとして掲げている私としては、その方の少し高揚した発言の様子と共に記憶に残るうれしいコメントとなりました。また、改めてこのプロセスを端折らずに丁寧に行くべきと実感した瞬間でした。

他にもあえて若手を中心に指名して発表して差支えのない範囲で発表して頂いたのですが、とにかく組織の目標とアラインさせる、意識するというやり方が自由なのです。バリューの1文から、一言だけ自分の心に響く言葉を選んで、自分の目標に入れるというようなやり方です。これは、私自身口では「自由に作って下さい」などと言うものの、ここまで自由に楽しそうに作って頂いた事は私にとっても驚きでした。おまけのセッションは、多くの方の心に響いたようでした。

組織への期待

組織の傾向や嗜好性に合わせて設計を進めた長いプロジェクトとなりましたが、改めて共通の目標を持つことによる組織のパワーアップを実感するプロジェクトとなりました。毎回私の経営理念浸透の調査指標として、組織への期待という設問を研修前と研修後で比較して伺っているのですが、今回の結果は現時点で137.8%と40%近く向上しました。この設問を私は判りやすくする為に「モチベーション」をベンチマークする設問として扱っておりますが、勿論「組織エンゲージメント」と捉えて頂いて結構です。この組織の今後のご成功を心からお祈りしております。