In 導入事例

日系大手製薬メーカー様で、プレゼンテーション研修を実施させて頂きました。対象はある特定部門のメンバー13名の方々です。タイトルは~心を動かす「伝える力」~としましたが、背景テーマは、ストーリーテリング(Storytelling)です。ストーリーテリングとは、そのまま日本語にすると「物語を語る」ですが、要は話し手の印象的な体験や具体的なエピソードを盛り込む事で、話の説得力を高める手法です。私はこれまでストーリーテリングという言葉を使った事はありませんでしたが、今回いろいろ事前に勉強をしてみますと、自分自身のやっている事は、まるまるストーリーテリングであるという認識を新らたに致しましたので、このコンテンツを今回は充実させ研修を設計することにしました。

その際、最初からストーリーテリングという言葉を先行させてしまうと、流行り言葉的であり、一見もっともらしいけれど、定義も曖昧ないわゆるバスワード的になってしまい、せっかくのプレゼンテーションの上級必殺技が、そこで思考停止、簡単に判った気持ちになりかねないと思い、あくまで影のメインワードとして設定し、最後の最後に納得して頂けるような設計と致しました。

研修のゴール

部門トップの方とご面談をさせて頂きご希望を伺いました。研修のゴールは、欧米人並みのプレゼンテーションスキルを身に着ける事です。そして、人前で話す際の大切に考えるポイントは以下の3点との事でした。

  1. 人を動かすにはマインドが重要
  2. 「Confidence(自信)を持って話せるようにする事
  3. 「自分の言葉で判り易く」

3番目など、まさに私が常々感じている事です。プレゼンテーションで人を魅了するには、「ロジカルシンキング」のような難しい本を読むだけでは、不足なのです。このような根本的に重要な所を押さえながらグローバルで展開する企業の本社のメンバーとして、人前で話すと称賛を受けるような人になる事を目指しました。

研修構成

研修構成骨子は以下の通りです。

  1. 説得力とは何か?
  2. 聴く技術
  3. 伝える技術
  4. 構成力と効果的な資料

研修の様子

ご人数が3グループ13名でしたので、最初に1分プレゼンテーションをグループ毎で行って頂き、全員のプレゼンテーションを拝見して、講師からそれぞれの方に学んで欲しいポイントをお伝え致しました。

結構な毒舌で辛辣なフィードバックをさせて頂くのですが、非常に好意的に受け止めて頂いたのが印象に残りました。ビジネスパーソンも年を重ねると、なかなかフィードバックなど頂く機会などないのかも知れませんね。

研修は、同じチームの皆様同士、とても和やかな雰囲気で研修は進みました。私の研修は、学んで欲しい事のお手本を講師がやって見せる実演販売的な面白さ重視の実演が多いのですが、1日コースでしたので、この日も沢山の実演を研修に織り込みました。実演→実践→課題把握→学び→実践というように、サンドイッチして行くと、お腹にちゃんと落ちる学びになると感じます。

この日の主な実演は、NHKアナウンスコンクール東京大会決勝進出の実力発揮の朗読実演、明治大学アナウンス研究会仕込みの早口言葉「外郎売」の実演、発声練習で滑舌の良い中島みゆきの「空と雲の間に」熱唱、明治大学専門職大学院MBAコースの学校紹介で入学者が140%になったプレゼンのショート版の実演など、見ればすぐ判る、記憶に残るという実演を入れて進めて行きました。因みに営業研修ですと、これに研修実施企業の商品のプレゼンの実演が加わります。

アンケートのコメントにも、「実演が多くてわかりやすかったです。」と書いて頂いたり、「実際の具体例を交えたり、声の質を高めるたりする練習を行うことで、「変われる」「変わりたい」と強く思えたことが良かったです。」と書いて頂きました。45歳を過ぎて初めてパワーポイントを触ったこんな私でも、このくらいできるのですから、優秀な皆様であれば「私にもできるだろう」と当然思われますし、そう思って頂きたいと考えています。ご理解頂きたいのは、練習すれば必ずできるものであるという事も実感して頂く事なのです。

とはいえ、講師が偉そうに言って、自分が出来なかったらみっともないので、この辺りは、私自身も練習、練習、また練習です。

アンケート結果

10点満点で5項目をご回答頂いた結果です。

  1. 満足度:平均9.31点
  2. 理解度:平均9.46点
  3. 実践:研修内容を取り入れたい:平均9.23点
  4. 研修推薦度:平均9.15点
  5. 講師評価:平均9.31点

研修で印象に残ったこと

  • プレゼン、コミュニケーションのトレーニングということで、自分のプレゼン力をトレーニングによって上達する道筋が見えた所が良かったです。
  • 努力して直す事ができるスキルに力を入れる価値が高いと感じた。
  • 訓練することで上達できるということ、プレゼンのプロでも入念な練習をして本番に挑んでいるということ。
  • JAPANET方式の「投げ」と「未来」、そのために必要な聴く力、共感力がとても印象に残りました。
  • 聴く力、伝える力を向上させるポイントを分かりやすくまとめて頂き勉強になりました。

研修の学びをどのように活用する?

  • 話し方や活舌の練習を日常的に行おうと思います。
  • 聴く力、洞察、相手の本当の価値観を探る探る
  • 伝える力、声の質、複式呼吸、滑舌を練習
  • 仕事柄、様々な部署、様々な価値基準を持った人と協働で仕事をする必要があるので、今日学んだことをとても活かしていけると思います。
  • プレゼンのみでなく人と話す際に常に意識することでコミュニケーションがより円滑になるポイントが詰まっていました。声やリズム、間の取り方など、日常に取り入れて活用します。
  • 実際のプロジェクトやプレゼンの機会に活用する。
  • 日々、滑舌の改善のトレーニングをしようと思います。またプレゼンについては、アイコンタクトなど、何度も練習して本番に臨みたいと思います。
  • 学んだことを盛り込みながら、イメージトレーニングをしっかり行います。(伝える力、聴く力、構成力)間を上手くコントロールします。
  • 共感を示す。忙しい時など話を聞きながら答えを出そうと思っている時があると思う。「大変ですね」ではなく、しっかり相手の立場に立って共感できる人間になりたい。

その他

  • 非常に勉強になりました。ありがとうございました。
  • 難しいことを言う必要はない、むしろシンプルにストレートに伝えることが重要と改めて感じました。コンプレックスを乗り越えたいと強く思いました。
  • 強みと弱みを理解できてよかったです。
  • 声を出すセッションがあり、自分の現在位置を理解できたので、今後がんばれます。
  • あえて言うなら、英語の場合でも使えるテクニックにまとめた方が良いと思う。

「ストーリーテリング」「プレゼン構成力」に関するコメント

  • プレゼン構成力に関するレクチャーが特に実践的で印象的でした。
  • 印象に残ったことは、story tellingと、信頼される声を手に入れることで、相手への印象を変えることができるというところです。
  • プレゼンテーションの構成とスクリプト作成にfocusしがちであったが、絵コンテのような流れを先に作る意義を強く感じた。
  • storytellingで構成を練ること、声の発声練習で説得力のある話し方を手に入れたいと思いました。
  • とても印象的でした。特に共感の重要性及び、ストーリーテリングの大切さを実感致しました。
  • 明日から「共感を示す一言を必ず加えること」「ストーリーを面談前に考えてから臨む」

実践(やってみる)多めに関するコメント

  • 発声方法や滑舌の練習を具体的に教えてもらえたのが参考になった。(早口言葉etc.)
  • 実演が多くてわかりやすかったです。
  • 実際の具体例を交えたり声の質を高めたりする練習を行うことで、「変われる」「変わりたい」と強く思えたことが良かったです。

お褒め頂きました

  • 柏さんの話が心に響きます。「心を動かす」というところ。追及したいと思います。
  • もっと柏さんの話を聞きたいと思いました。
  • 雰囲気の良い中で楽しく学べました。ありがとうございます。
  • Pygmalion効果のstory、とても感動しました。私もポジティブに人を動かせるリーダーになります。
  • 柏先生の話す力、プレゼン力、パワーポイントの分かりやすさ、目から鱗でした。素晴らしい研修をありがとうございました。

第2回研修 NEXT STEPの実施

40日後に、第2回の振返りコースを実施させて頂きました。「アドバンスコース」として、実際にすぐに業務でプレゼンをする必要のある方を中心に、6名が参加されました。

上記のコースアジェンダ(予定項目)通り、事前に当日プレゼンするパワーポイント資料を提出して頂きました。優秀な皆様ですので、瞬時に理解し実践できるはずという期待は大きく裏切られ、6名中、資料段階で合格が出せるのは僅かに1名でした。学んだ事を実践する事の難しさを感じました。因みに、合格点を出した方の初回のアンケートは、10点満点の所、すべて12点をわざわざつけて下さった方ですので、私が、もっと研修の学びを深めていれば、合格者を増やす事ができたと思います。

傾向としては、上手くできるはずの方、すでに沢山の経験を積んで来られた方の方が、どうしても今までのやり方に引っ張られる事に驚きました。6名中2名の方は、パワポテンプレートを使用した、字がいっぱいの投影資料、または、クリップアート風のイラストを多用した失礼ながら(ご本人にも直接申し上げましたが)昭和の匂いのする資料など、これは非常にまずい、3時間の振返りコースでは、兎に角、個々の苦手分野の克服に集中しようと覚悟を決めました。

パワーポイント資料を説得力のあるものにする※本文中パワポ資料と表記

振返りコースは、「実践」「振り返り」「実践」の3部構成です。まず用意して来て頂いたパワーポイントを使いながら、3分間のプレゼンテーションをして頂き「声の使い方」「ボディランゲージ」「資料の内容」の3点について、フィードバックして行きました。資料の内容については、予め頂いていたパワポ資料の講師修正版をご用意して、よりよくする為のポイントや、こちらの社内でありがちなパターンなどを分析して解説させて頂きました。

それぞれの方のパワポ資料は、対外的に公表されている情報のみを使用する事という条件付きでしたが、医薬情報に関するものが多く、私は修正するにあたり背景情報をかなり勉強させて頂く事になりました。しかし、中期経営計画など読み内容にまで踏み込んだパワポの修正は、妥当性に加え同じビジネスパーソンの仕事に対する姿勢として皆さんの高評価を頂けたようで、それはそれで、辛口コメントを中和するお互いの共感という点で良かったと思います。写真に写っているのは、私の修正後のパワーポイントです。

相手にYesを貰うためには、プレゼンでしっかりと自分を見て貰う事が大切です。キーになる印象的な写真に1スライド1メッセージで、想いをしっかり伝えたいのですが、「そうは言っても、うちのプレゼンでは、パワポはBusy(沢山の情報が詰まっている)の方が好まれる」など、反対意見も、どんどん出して頂ける刺激的なやり取りが続きます。

因みに、この件に関しては、エビデンス(証拠)をすべて提示して、自分が一通りしゃべってから議論が始まる「研究者にありがちなプレゼンスタイル」というのをご紹介させて頂き、皆様の当たり前と即断即決が求められる昨今のビジネス社会の当たり前が、違う可能性がある事についても留意して頂ける様、ご理解頂きました。

コースの流れとしては、皆様からもフィードバックをして頂き、私もという流れですが、同じチームで仕事をしている仲間に「ここを変えればもっとよくなる」というダメ出しをするのは、なかなかに難しく、激辛フィードバックは、もっぱら講師の仕事になりました。

実践瞬発力トレーニング

実践してみて、また学びの重要性を再認識して頂いた所で、前回の振返りのセッションを行い、最後のパートでは、「実践瞬発力トレーニング」という難易度の高い演習に挑戦して頂きました。

私自身は、常にこのトレーニングをやっています。やり方は、ストップウオッチを持ち、自分にお題を出します。「植木」とか「机」とか、そのあたりにあるものです。15秒で考えて1分で相手がいると仮定してそのお題について話ます。歩きながらやることが多いですが、繰り返しやって行く事で、自分の言葉で話しをまとめて簡潔に伝えるのが上手くなります、また1分という時間を体感できるようになりぴったり1分で話せるようになります。

そして、何度もやっていると、失敗するパターンも判ります。お題そのものから話をはじめると、だいたい1分持ちません。「植木」の場合ですと「みなさんは、どんな植木を育てていますか?」というようなスタートは完全NGパターンです。必ずと言っていいほど、話に詰まります。「自然は人のエネルギーを回復させるそうですよ、私は外で緑に触れるだけでなく、部屋にも緑を置いています。みなさんは~」という様なあえてキーワードを外したパターンではじめると、話も広げやすいですし、言いたい事もズバッと伝わります。ちょっと専門的な言葉で言えば、15秒で考えるのは、キーワードから連想する「キーラインメッセージ」だからです。

今回はじめて研修内に取り入れ、しかも短めではありますが、ある技術提携に関するプレスリリースをまとめて1分で話すというように難易度を上げてやって見ました。提携によって生まれる企業価値や患者様のメリットをどのくらい熱く語れるのかがポイントになります。「とても、難しい、でもこういう場面に仕事で何度も直面していて、その度に上手く行かない」「シニアになると、こういう受け答えは実に上手い」というような率直なご意見をここでも頂きながら、トレーニングを行いました。確かに難しかったですが、2回目になると皆様、てきめんに上手くできるようになりましたので、これも練習、練習で克服できると実感して頂けたのではないでしょうか?

因みに、私も初見でしたが、同じプレスリリースのサマリーをやってみて下さいと言われてしまいました。たいした背景知識もないのに、お恥ずかしい1分プレゼンをさせて頂きました。内容は案の定たいしたものになりませんでしたが、その割には手前味噌ですが押し出し抜群で、逆に、ここで皆様に改めて「声」や「ボディランゲージ」で説得力は変わるという事を再確認して頂けたので、中身ボロボロで却って良かったとポジティブに捉える事にしました。

「みまもり」の大切さ

今回の振返り研修では、「できるまで“みまもる”事の大切さ」に気が付きました。エビングハウスという研究者は、すでに日本の明治時代に「人は忘れる生き物である」という事を忘却曲線というものを使って発表しています。実験は、無意味なものの羅列を覚えるものでしたが、1日で70%忘れてしまうのです。たとえば、「1スライド1メッセージ」という投影資料をご参加の方が見た時間は、3秒ぐらいでしょう。人の記憶の性質を理解せずに、それで、すぐに出来ると思った私が間違っていました。

これは、私自身の考え方をシフトする必要があると思いました。私は、これまでスキル部分は、一度聞けばその場で改善できる、つまりすぐ成果になると考えていたからです。

ただ、記憶できなければ、改善にはつながりません。今回のように振り返りコースを実施させて頂くと、持ち帰るポイントがそれぞれの方で異なるという事が実感を持って、判ります。

ある方は声を練習し大きな声になり、ある方はパワポ資料が見違えるようになり、またある方は、人と話すと一気に緊張してしまい苦手だったのが、アイコンタクトをして話せるようになる等、自分に優先順位の高いものから、持ち帰ってものにされているのです。今後は、定着化についても、「人は忘れる生き物である」という大前提を真摯に受けとめ、さらに工夫を続けたいと強く思いました。

お客様には、それぞれご事情がありますので、いつもという訳にはいきませんが、

今後は、かならず、「やってみる」為の振り返りコースを少なくとも+1つける、またはそもそもコースをふたつに分割するご提案も、合わせてご検討の候補にして頂かなくては!勿論、みまもり機能付の複数回コースもと、定着についても示唆の多い今回の研修となりました。

(2018年6月・8月実施)