プロセス設計で浸透の速度が変わる
「経営理念を改定するとき、どこから手をつければよいのでしょうか?」 「だれと、どのように進めるのが理想的でしょうか?」会社にとって大切な経営理念の改定では、失敗は許されません。得たい成果も明確にする必要があります。しかしながら、それよりも大切なことは、パーパスの浸透まで見据えた策定のプロセス作りです。
昨年から6ヶ月をかけ従業員約800名のIT企業様で経営理念改定のサポートをさせて頂きました。パーパス策定のワークショップは、毎回後戻りのできない真剣勝負で緊張しますが、最終的に心が震えるような素晴らしいパーパスと短い説明文が完成しました。最初のワークショップからお披露目会での発表まで、6ヶ月。その後も、部長職向けのパーパスワークショップ、アンバサダー(推進の旗振り役)向けワークショップとプロジェクトは続いていますが、本日は策定から発表までを事例として共有します。設計段階で社風に合わせたプロセス作りが成功の鍵であると考えます。今回は、社長から頂いたテーマは、「社員のしあわせ」、プロジェクトを推進するのはウェルビーイング推進室です。
「共感」を広げるプロセス
「作ったけれど結局使われない」という状況を回避するためには、最初から使う時のことを考えておく必要があります。パーパス・バリューを浸透させていく際に、もっとも大切なことは、パーパスへの共感。共感を呼び起こすために、必要なことは、3つあります。
- 当事者意識 共に作る・共に考える
- 自分ごと化 個人の視点と組織の視点の融合
- 仕組み化 継続して意識できる仕掛け
もっとも効果的なことは、共に作ることです。どうしても共に作れない場合は、ともに考えるが第2の選択となります。この共感の広げ方については拙著「パーパス浸透の教科書」で書いています。
今回は全体が800名でしたので、100名で共に考え、そこから選抜メンバー20名で完成させるというプロセスで設計しました。選抜メンバーは、Leadersという呼称で呼ばれていましたが、そのLeadersの代表と副代表2名の3名が最終的に役員へのプレゼンなどを担当してくれました。
100名ワークショップでアイデアを集める
最初のワークショップは、共に会社のパーパス(存在意義・志)を考える半日のワークショップです。メンバーは一部課長も入りましたが、非管理職が中心。5-6名のグループに分かれて議論をして、最終的にグループの数のパーパスの土台となる文言が書かれた模造紙が完成します。今回は15枚の模造紙が完成しました。完成した模造紙を示しながら各グループがそれぞれの想いを発表したあとに、各自数枚のシールを渡され、自分のグループ以外の模造紙に書かれた文言で良いと思うものに、シールを貼っていきます。これがパーパス策定のベースになります。
100名もいて、話がまとまらないのではと心配しますが、100名でも200名でも必ずまとまります。100名にしているのは、単に一人の講師でハンドリングできる限界だからです。もし、それ以上の人数に関わってもらいたい場合は、最初のワークショップの回数を増やしていきます。
今回のワークショップでは、15グループから、共通の想いのような言葉が浮き上がってきました。別々のグループで別々に議論を進めても毎回不思議と根底に流れる共通の想いが「浮かび上がります」。
ロジカルでクールな参加者から熱さを引き出す
思い込みや決めけは良くありませんか、ここで業界の傾向について考察してみます。今回のようなIT企業の中でもSIerという言われる企業では、静かにPCと向き合う仕事の仕方をされる人の比率が高くなります。営業部隊の人数が多い企業に比べると、全体がおとなしい印象があります。また、知性・論理と感情という分類で言えば、圧倒的に知性・論理が勝っていて、感情的な議論は苦手な傾向にあります。
まして対面で、かつ大人数で自分の感情出すのは得意ではありません。このケースをお読みの方の中にも「うちのメンバーはおとなしいから」とか、「うちは、こういうワークショップは、盛り上がらないんだよな」とお感じになる責任者の方もおられると思います。これを一番心配されていたのが、社長で次が講師の私だったように思いますが、結果は感動するくらい皆さん熱く語り合いました。
このような少々ロジカル強め、クールな参加者が多めの企業でのワークショップ設計では、通常の構成から大きく変えて、結論から入る、証拠(エビデンス)を数字で示すなどの工夫をしています。また、心の中には必ず炎が燃えていると信じて、参加者とやり取りをするように心がけています。今回は、参加者の発言で「ツンデレなだけです、本当は熱い人が多いのです」というのがあったため、この言葉を引用して、少々控えめな発言や、斜に構えたような反応の際には「みなさん、ツンデレなだけですよね!」という言葉でトーンダウンしそうな空気を吹き飛ばしました。
※ツンデレとは、普段は冷たくそっけない態度(ツン)を取りますが、特定の相手や状況下では甘えたり、好意的な態度(デレ)を見せる様子やそのような人を指す言葉です。
選抜メンバーLeadersの活躍
熱く語り合った100名ワークショップで作られた15枚の模造紙は、約20名のLeadersたちがまとめてくれました。言葉を抽出するために、まずは3グループに分かれて、それぞれパーパスの文言を作り、最終的にひとつにまとめていきました。途中部長会にかけて意見をもらい、少々辛辣なコメントも頂きながら、最終案が完成。今回は、事業部毎に仕事のカラーが異なるために会社全体としてのビジョンを出さず、ビジョンと働き方の共通言語であるバリューは個々の本部で作成するということで決定していたので、パーパスはいつもおすすめする1行パーパスではなく、1 行のパーパスに短い説明文を付け加える形で作ることをゴールにしました。
最終案の役員会での報告で嬉しかったことは、選抜Leadersたちが、発表の中で「(講師の)柏さんが良いというものは、ことごとく決まらなかったんです」と楽しそうにネタバレしてくれたことです。専門家である、私が入ることで最後は文言整えてくれるのだろうとか、コピーライトしてくれるのだろうとか、変な期待をされても自分たちで作ったことにならないのですが、今回は専門家として私はアドバイスに徹し、Leadersが主体的に決定する場面が多く見られました。言葉を見事に集約、紡ぎあげてくれたLeadersたちには、感謝しかありません。
ハイブリット開催お披露目会
お披露目会は、対面100名強にオンライン約250名のハイブリット方式、約350名規模で開催されました。
これによって、100名→20名→350名が実際に完成したパーパスに関わったことになります。
このお披露目は、私の方でパーパスとは何かというお話をした後に、完成したパーパスのお披露目をLeadersたちがしてくれました。その後、20グループに分かれてこのパーパスを絵で表現してもらう「つまどう会議」(つまりどういうこと会議)を行いました。
各グループの発表は、カメラを入れて同時配信をして、講師である私はUMUというアプリケーションを活用して、オンライン参加者の意見を即時拾って会場に共有していきました。ひとりの講師で、2台のPCがあるだけで、このようなことが出来てしまうのは、ちょっと恐ろしいIT技術の進化です。
今回100名で作成した15枚の模造紙、そこから3枚の模造紙と言葉を絞り込んでいったのですが、お披露目会でこの模造紙を全部紹介しました。言葉が本当に上手く集約されていて、誰がみても、すべてのディスカッションが生かされて、このパーパスになったということが一目瞭然で素晴らしかったです。お披露目会で20枚作成されたパーパスの解釈である「つまどう会議」の成果である模造紙も含めて浸透活動の節目、節目で共有して頂ければと思いました。
「パーパスが気にいった」が94.7%!
お披露目会の最後にQRコードで新しいパーパスは気にいりましたか?と質問をしました。
73%の方が「とても気にいった」22.7%の方が「気にいった」と回答、2つを合わせると気にいったが94.7%という結果になりました。これが、社外のコピーライターに任せることなく、多くの社員が関わって作ったパーパスの威力だと感じました。
もちろん、この気に入った!と感じてもらえたパーパスを、どのように使って職場を変えていくのかは、まさにこれからです。完成しました、みるみる浸透していきましたなどという話は聞いたことはなく、ここから組織に合わせた浸透施策を実施しながら、強い影響力を発揮してくれるインフレンサーをひとり、ふたりと増やし、波紋を広げて行くように浸透させていくことになります。ここから、働きやすい職場、やりがいのある職場、社員がしあわせを感じられる職場作りがスタートするのです。この事例では、このあと部長層、アンバサダー養成、全社イベントと施策が続きます。
パーパスを飾りで終わらせないためには、作るところからの仕掛けが非常に重要です。みなさんの会社でも、作る所から浸透を見据えた活動をされるのはいかがですか?


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