In 理念浸透

経営理念の浸透には、共感が非常に重要です。本日は理念浸透における「共感」の重要性についてお話させて頂きます。前回のブログ「良い経営理念・行動指針の作り方」でお伝えした通り、理念の浸透は、以下の3つで測ることが可能です。

  1. で理解している        「理解」(認知的理解)
  2. で感じている         「共感」(情緒的共感)
  3. 身体(行動)で示せている    「行動」(行動的関与)

この中でも「共感」が重要であると申し上げる根拠は、私の行った定量調査によるデータ分析によります。私は、2016年から2017年にかけて明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス科(MBAコース)において経営理念浸透に関する研究に取組み『経営理念の浸透レベルの違いが組織成員に与える影響について‐「理念への共感」に着目した経営理念浸透―』という論文を執筆しました。その際、人事領域はヒアリングなどによる定性分析が多い事から、徹底的に数値で、定量的な根拠を掴みたいと考え、アンケート調査を実施しました。

調査の対象としたのは、東京に本社を置く東証一部上場のITメディア企業(従業員14,000名)の500名規模の1事業部です。インターネット経由の33問からなるアンケートを本部および4営業拠点で調査を実施し合計206のサンプルを回収し、欠損値1と契約社員を除く正社員186名で分析を行いました。合わせて事業部を統括するトップ(本社上席執行役員)に対して3度のヒアリングを行いました。

定量分析で、明らかにしたかった事は主に以下の5点です。
1. 理念の浸透のレベルを測定する為の尺度を先行研究にならい明確化
2. 理念浸透においては、「理念への共感(情緒的共感)」が重要である事の証明
3. 理念浸透に一定の影響を及ぼす属性別の特徴の抽出
4. 理念の浸透は従業員満足に影響を与えるか否かの定量的証明
5. 理念の浸透が従業員満足を高める過程には特定の要因があるか否か

分析にあたっては、50本以上の論文をはじめとし、理念関係の書籍をあたりましたが、特に先行研究である2012年の高尾義明先生 王英燕先生の「経営理念の浸透 アイデンティティプロセスからの実証分析」とその妥当性を論じた論文を研究のベースとしています。まず最初に先行研究の調査の妥当性と、経営理念浸透の尺度を再確認する為に検証的因子分析を行い、経営理念の浸透レベルは「(情緒的)共感」「(認知的)理解」「行動的(関与)」であると確認しました。また因子(個々の項目)毎の平均値と先行研究データの比較から先行研究では明らかにされなかった浸透レベルの3因子に正の相関がありうる事を確認しました。

また、先行研究では、この3因子の重要度については触れられていませんでしたので、「理念への共感」が最も重要な要素であることを今回追加した設問による重回帰分析で証明し、調査企業の属性別のクロス分析や従業員満足度への影響なども検証することにしました。

調査対象者属性

分析に使用した対象者の男女比は、男性が82.3%と圧倒的に高く、年齢は30代が多いが、各年代に比較的幅広く分布していました。職種では、直接顧客に接する営業部門の53.8%と既存顧客をサポートする営業サポート部門の25.3%を合わせると79.1%が営業部門です。営業拠点別では、1本部4拠点となっており、拠点Aが43%となっている。勤続年数は10年未満が58.6%と過半数を占め、管理職比率は28%です。

共感の重要性

この会社がどの程度理念浸透をしているかの詳しいデータは、論文に譲りまして、本日は核心となる、経営理念浸透における「共感」重要性の結果についてご紹介させて頂きます。3因子「認知的理解」「情緒的共感」「行動的関与」の重要度を測る為の総合設問は、「自分自身の中に経営理念・行動指針は浸透していると感じる」としました。3因子とこの総合設問の重回帰分析を行いました。その結果がこちらです。

自分の中に理念が浸透していると感じている人は、理念に「共感」している人という事になります。良く理解しているし、経営理念を求められれば他の人にも説明できというような項目に高い得点をつけ頭では理解していると回答している人の浸透していると感じ方は弱く、破線になっている行動的関与は、統計データー的には、全く関係がない事を示しています。「メールなどの社内文章でも使っています」「社内会議でも使っています」「経営理念は私の仕事の進め方に影響を与えています」などの項目に高めの点数をつけていたとしても、まったくコミットしていないことが判ります。ここで気になるのが、情緒的共感の設問だと思います、以下の3問になります。

  • 私の価値観と自社の経営理念・経営方針・行動指針は矛盾しない
  • 自社の経営理念・経営方針・行動指針に共感を覚える
  • 自社の経営理念・経営方針・行動指針は仕事上の難関を乗り越える上で助けとなる

理念唱和は効果が薄い

さて、ここから判る重要な事が2つあります。ひとつ目は、幾ら「認知的理解」を進めても、「浸透への影響は小さい」という事です。理念を毎朝唱和されている企業様も多い事と思いますが、ゼロとは申しませんが、このデータからみますと、「理念唱和は効果が薄い」可能性が高いのです。ふたつ目は、理念を無理やり使わせるような仕組みを作ったり、行動の強制をしたところで、「行動の強制は効果がない」という事です。

私のお客様でも理念唱和を続けていらっしゃる所は、かなりあります。どちらかと言えば、500名以下の従業員の企業に多いという印象です。もし理念そのものが「みんなのもの」「経営体のもの」というより社長の覚悟のようなもののまま、毎朝の唱和を続けていらっしゃるとしたら、よほどのカリスマ社長様でない限り、少々辛口で申し訳ありませんが施策としては厳しいという事になるかもしれません。

従業員満足と理念への共感の関連性

いくら私の中に理念が浸透していると回答されても、それが日々の仕事ぶりに反映されなければ意味がありません。結論から申し上げれば、この理念への共感は従業員満足度に大きな影響を与えていることをデータが示しました。これについては、次回またお話させて頂きます。

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